『エンディミオンの覚醒』を読んで、SFが苦手というのは辞めた

エンディミオンの覚醒というダン・シモンズのSF小説。この作品でついに4作続いたハイペリオンシリーズは終わります。終わってしまうのです。

ですが、これがなんとも長い長い!

上下巻合わせて1420ページもある超大作。その中身といえば、今までの3作品のそれらとは全く違う攻め方で僕らを魅了していきます。

もしかすると3作品までは読めたけれども、最後の最後で挫折したという人もいるかもしれません。

それはなぜか。

この作品はとにかく「哲学」なのです。

わかりやすい冒険譚だった前作『エンディミオン』から一変して、一人語りの多い哲学もの。

仏教やキリスト教を総動員して、生と死、人間と機械などを語っていきます。

そんな作品をあなたにはぜひ挫折せずに読破してもらうため、『エンディミオンの覚醒』についてレビューをしていきたいと思います。

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小説『エンディミオンの覚醒』 – ダン・シモンズ・あらすじ

エンディミオンの覚醒
4.7

著者:ダン・シモンズ
翻訳:酒井昭伸
出版:早川書房
ページ数:1420ページ(上下巻)

聖十字架によって宇宙を統治するパクスの手から逃れた救世主アイネイアーと主人公エンディミオンたちはついに、失われたと思われていた「地球」にたどり着いた。そこで様々な仲間たちと4年間を過ごした彼らは、自らの使命を果たすべく、再びパクスの支配する場所へ赴くことを決意する…。ハイペリオンシリーズ四部作、ここに完結。

読書エフスキー3世 -エンディミオンの覚醒篇-

前回までの読書エフスキーは

あらすじ
書生は困っていた。「もうSF小説が苦手だなんて言わないぞ!」と仕事中に寝言を言ったせいで、独り、無料読書案内所の管理を任されてしまったのだ。すべての本を読むには彼の人生はあまりに短すぎた。『エンディミオンの覚醒』のおすすめや解説をお願いされ、あたふたする書生。そんな彼の元に22世紀からやってきたという文豪型レビューロボ・読書エフスキー3世が現れたのだが…

エンディミオンの覚醒 -内容紹介-

無料読書案内の書生
大変です!先生!ダン・シモンズの『エンディミオンの覚醒』の事を聞かれてしまいました!『エンディミオンの覚醒』とは一言で表すとどのような本なのでしょうか?
読書エフスキー3世
“時空を超える恋愛小説”デス。
無料読書案内の書生
え…!?あれ!?なんか冒頭で哲学がなんだとか言っていませんでしたか?…正直な話『エンディミオンの覚醒』は面白い小説なのでしょうか?

「教皇聖下崩御! 聖下のたまよ、永遠なれ!」
 教皇の死を伝える叫び声が、聖ダマススの中庭に響きわたった。教皇宮殿において教皇ユリウス十四世の遺体が発見されたのは、ついいましがたのことである。

引用:『エンディミオンの覚醒』ダン・シモンズ著, 酒井昭伸翻訳(早川書房)

読書エフスキー3世
コンナ一文カラ始マル“ダン・シモンズ”の1997年の作品デス。読メバワカリマス。
無料読書案内の書生
全然、恋愛小説っぽくないじゃないですか!ちょっとレビューしてくださいよ。
読書エフスキー3世
読む前にレビューを読むと変な先入観が…
無料読書案内の書生
ええい、こちらは時間がないんだい!先生、失礼!(ポチッと)
読書エフスキー3世
ゴゴゴゴゴ…悪霊モードニ切リ替ワリマス!
無料読書案内の書生
うぉおおお!先生の読書記録が頭に入ってくるぅぅー!!

エンディミオンの覚醒 -解説-

読書エフスキー
ハイペリオンシリーズもついにラストになりましたね。
書生
『ハイペリオン』『ハイペリオンの没落』『エンディミオン』と、全部違った角度で面白くて挫折の気配すらなく読み終えましたよ。
読書エフスキー3世
…しかし、もしかしたら君は今回の作品で挫折してしまうかもしれません。
書生
え!?面白くないんですか!?
読書エフスキー3世
そりゃー面白いですよ。ローカス賞を受賞していますし、1998年のヒューゴ賞にもノミネートされたぐらいですから。
書生
じゃあ、なんで挫折するなんて言うんですか?
読書エフスキー3世
それはこの小説が、あまりにも複雑な時間軸で流れていくからです。
書生
複雑な時間軸…とは!?
読書エフスキー3世
なんとアイネイアーは瞬間移動が出来るようになるのです。
書生
な、なんですと!?
読書エフスキー3世
なので、一瞬前はあの惑星にいて、一瞬前はこっちの惑星にいる…みたいな場面転換がたくさん行われます。
書生
ただでさえ、壮大過ぎて風景描写があまりイメージ出来ないのに、場面がどんどん変わっていくんですか…。
読書エフスキー3世
しかもそれだけでなく、この作品は主人公の記憶を記録している形になるので、昔語りだったり、今のことを語ったりなどなど時間軸もズレていきます。
書生
なんと…。場面だけでなく時間までもあっちこっちですか。
読書エフスキー3世
さらにはアイネイアーの一人語りが多くなります。
書生
一人語り?あれ?主人公のロールの記憶なんですよね?
読書エフスキー3世
アイネイアーは地球に来てから、教えるものとして、宗教の教祖みたいになるんですね。なので人々の疑問などに答えていくのです。それがひとつひとつ長い。

「むかしむかし、標準年で千年以上も前、聖遷よりも……二三三八年の〈大いなる過ち〉よりもさらに前……わたしたち人類が知っていた唯一の自律知性オートーノマス・インテリジェンスは、わたしたち人類だけでした。当時の人類は、もし自分たちが異種の自律知性AIを創りだすとすれば、それは巨大プロジェクトの結果であり……シリコンをベースに、トランジスター、チップ、基盤などと呼ばれる、大むかしの増幅器、スイッチ、検出装置などを大量に用いて、大量のネットワーク回路を結びあわせた……いいかえれば、人間の脳の形状と機能を猿まねした――というのは、あまりいい表現じゃないけれど――機械になるだろうと思っていました。

(中略)

 この発見とパニックは、ちょうど〈コア〉がオールドアース破壊に着手したときに起こりました。マーティンおじさんの詩には、〈コア〉がどのようにして二三三八年の〈大いなる過ち〉を企み、ブラックホールがオールドアースの中心に落ちる“事故”をキエフの研究グループに起こさせたかがつづられていますが、あの詩にも、〈獅子と虎と熊〉の発見で〈コア〉がパニックを起こしたこと、大急ぎでオールドアースの破壊を中止しようとしたことまでは――これは書いた本人も知らなかったせいで――記されていません。崩壊する惑星の核で肥え太っていくブラックホールをすくいあげるのは、なみたいていのことではなかったけれど、それでも〈コア〉はなんとかその方法をひねりだし、大急ぎで回収を実行しようとしました。

(中略)

 では、そんな〈コア〉がいまの人類にもとめているものはなにか? なぜ〈コア〉は瀕死のカトリック教会を甦らせ、パクスの出現をゆるしたのか? 聖十字架はどんな働きを持ち、〈コア〉のどんな役にたつのか? いわゆるギデオン機関をそなえた大天使は、じっさいにはどのように機能し、それは〈虚空界〉にどんな影響をもたらすのか? 〈獅子と虎と熊〉の脅威に対して、〈コア〉はどのように対処しようとしているのか?
 それらについては、またこんどの機会にしましょう」

PP.643- 659

書生
な、長い…
読書エフスキー3世
たとえば、こんな感じで前作との矛盾を修正しつつ、これまで謎を解明していくアイネイアーの一人語りが続いていく部分が多いのです。
書生
えー。それって本当に面白いんですか?
読書エフスキー3世
面白いですよ。今までの謎がひとつひとつ丁寧に解かれていきます。ただ、それが人によってはよくわからないって事になるかもしれません。
書生
うーむ。面白さがいまいち伝わってこない。
読書エフスキー3世
まぁ、過去の『ハイペリオン』や『ハイペリオンの没落』、『エンディミオン』で残された謎ですからね、覚えていない人もいるかもしれません。
書生
一つ一つが長い作品でしたからね。僕も『ハイペリオン』の詳細な事とか、はっきりと覚えているか定かではありません。
読書エフスキー3世
そんな過去の事と並行してパクスとの戦いが展開されていくので、読みにくさはあります。
書生
じゃあ、やっぱり面白くないんじゃないですか。
読書エフスキー3世
だがしかーし!この小説は恋愛小説なのです!
書生
恋愛小説ですか。アイネイアーとロールの?
読書エフスキー3世
そうです。前作アイネイアーはまだ少女で若かったですが、今作はそれから4年。アイネイアーも美しい女性になっています。それは外見的なものだけでなく、本文にはこんな感じで描かれています。

たしかに、子供独特のまるみの名残は消え、頬骨もするどくなり、体格もがっしりとして、腰が張りだし、胸もわずかにふくよかにはなっているし、しなやかなズボン、ひざちかくまであるブーツタリアセン・ウエストでも着ていた緑のシャツ、風にはためくカーキ色のジャケットを身につけた肢体は、オールドアース時代にくらべれば力強くなり、筋肉もついている。それでも、それほど極端に外見が変わったわけではない。
 それでいて、すべてが変わっていた。ぼくがよく知っていた子供のアイネイアーは、もうそこにはいなかった。そこに立っているのは、成熟したおとなの女性だった。見知らぬ女性は、粗い足場の上を足早に歩みよってきた。すっかり別人のように見えるのは、たくましくなった体格のせいでも、いまなお細身のからだについた筋肉のせいでもなく……精神的な充実のせいだ。存在感のせいだ。アイネイアーは子供のころでさえ、ぼくが知っている人間のなかでいちばん生き生きとして、活気があって、完璧な人間だった。もはや子供ではなくなり、すくなくとも子供の要素が大人の要素に埋没してしまったいま――その活気あふれるオーラのなかに、ぼくは精神的な成熟を見た。

P.609

書生
精神的な成熟。ロールもアイネイアーを恋愛対象として見始めるんですね。
読書エフスキー3世
32歳のロールと16歳のアイネイアー。結構年の差のある恋愛ですよね。ただ、アイネイアーは今では教祖的な立ち位置にいますから、年上でもロールとしては、距離を感じて余裕がないわけですよ。
書生
なにせ救世主ですもんね。アイドルと恋愛する人の気持ちのようなものですかね。売れてほしいけど、売れれば売れるほど遠くに行ってしまう気がするっていう…。
読書エフスキー3世
ちなみに地球で4年過ごし、その時が来ると、アイネイアーは仲間たちそれぞれにやるべきことを告げます。
書生
やるべきこと?
読書エフスキー3世
アイネイアーにはぼんやりと未来が見えますからね。その人その人のなすべきことと場所を告げるのです。
書生
ふむ…。
読書エフスキー3世
ただ、そのなすべきことの為には、ロールとアイネイアーは別々の場所に向かわなければならないようなのです。
書生
『エンディミオン』のような3人の冒険譚にはならないんですね。
読書エフスキー3世
しかも、アイネイアーはA・べティックと一緒に行動します。
書生
青い肌のアンドロイドですよね。ロールだけノケモノなのかー。
読書エフスキー3世
嫉妬にも似た気持ちを覚えますが、ロールは仕方なくアイネイアーに言われたとおり、領事の宇宙船を取りに戻るのです。
書生
あー、確か『エンディミオン』の途中で、どこかの惑星に置いて来ていましたね。
読書エフスキー3世
まぁ、それから色々とあってアイネイアーと再会するのですが、どうやらアイネイアーは誰かと結婚していて、子供までいるという情報をロールは耳にします。
書生
な、なんだって!?
読書エフスキー3世
しかし、ロールはアイネイアーに詳しく聞くことも出来ず、あれこれ想像を飛ばしては悶々とします。一緒にいたA・べティック聞いたりして、嗅ぎ回っている自分に嫌悪をしたりね。

自分が最低の豚野郎になった気がした。愛するひとの過去を、こんなふうにこそこそ調べるなんて。

P.388(下巻)

書生
最低の豚野郎って(笑)。確かに恋愛小説っぽいですね。
読書エフスキー3世
そんな中、ネメスは3人の仲間を手に入れます
書生
ん?ネメスって敵のやつですよね。前回、アイル・ビー・バック的な感じで地中に沈みませんでしたっけ?
読書エフスキー3世
その新しい3人によって救出されたんですよ。そしてネメスのように時間を操れる殺戮兵器として4人はアイネイアーの命を狙うのです。
書生
な、なんと…1人でも苦労したのに4人も!マジでターミネーターですね…。
読書エフスキー3世
そんなパクスの追っ手に追われながら、ロールとアイネイアーは歴史を変えつつ、愛を育んでいくっていうのが今回の大筋です。二人の愛の行方に焦点を合わせるとなかなかおもしろい小説ですよ。
書生
…この作品はハッピーエンドなんですかね?
読書エフスキー3世
どうでしょうね。人によってはハッピーエンドに見えるでしょうし、人によってはバッドエンドにも見えるでしょうね。
書生
え?普通はどっちかじゃないですか?
読書エフスキー3世
ええ。だから「普通」じゃない終わり方なんですよ。
書生
普通じゃない終わり方…とは?
読書エフスキー3世
それは読んでからのお楽しみでしょう?
書生
く、くそう。やっぱり読まなければならないのか。1400ページもの作品を。
読書エフスキー3世
ただひとつ言えるのは、4作品の中で一番心に刺さる言葉多い作品だと言うことです。集大成にふさわしく、いろいろな角度から様々な真理を語ってくれます。例えばこんな感じです…

自分にぴったりの相手と愛を交わすことは、人間の犯す山ほどの過ちを補ってあまりある。

P.678

生と死は、形が変わるだけで、連続したものなんです。僧侶の死には胸が痛むけれど、それで生というものが小さくなるわけじゃない。

P.74(下巻)

M・エンディミオン。いまおっしゃった“人間のくだらない感情”が愛情を指すのでしたら――長いあいだ人間を見てきて、わたしにはわかっているつもりです。愛情はけっしてくだらない感情などではありません。M・アイネイアーは、愛は宇宙の主要エネルギーであると教えておられますが、これは正しいのではないかと思います

P.389(下巻)

だれかと新しい関係を築き、ともに暮らす相手を見つけ、新たな可能性を見いだすさい、人間の心は不思議なほどの柔軟さを見せるものだ

P.581(下巻)

書生
ふむ。ちょっと引用読んだだけでも、心に沁みるなぁ。よっしゃ、いっちょやる気出して読んでみるかー!
読書エフスキー3世
この作品を読み終えた頃には、立派なSF小説愛好家です。SFの色んなものが詰まった作品ですから。
書生
うむ!もうSF小説が苦手だなんて言わないぞ!

批評を終えて

読書エフスキー
以上!白痴モードニ移行シマス!コード「ラスコリ・ムイシュキン・スタヴローギン!」
無料読書案内の書生
「もうSF小説が苦手だなんて言わないぞ!」…って、あれ?僕は一体何を…。
職場の同僚
何をじゃないよ!仕事中に居眠りこいて!なにが「SF小説が苦手」だよ。お前、最近SF小説しか読んでないじゃん。
無料読書案内の書生
え?あれれ?読書エフスキー先生は?
上司
誰だそれ。おいおい。寝ぼけ過ぎだぞ。罰として一人でここの案内やってもらうからな!
無料読書案内の書生
えーっ!?一人で!?で、出来ないですよ〜!!
上司
寝てしまったお前の罪を呪いなさい。それじゃよろしく!おつかれ〜
無料読書案内の書生
ちょっ、ちょっと待って〜!!…あぁ。行ってしまった。どうしよう。どうかお客さんが来ませんように…。
お客さん
…あのすいません、エンディミオンの覚醒について聞きたいんですが。
無料読書案内の書生
(さ、早速お客さんだーっ!!ん?でも待てよ…)いらっしゃいませー!ダン・シモンズの1997年の作品でございますね。おまかせくださいませ!
 あとがき


いつもより少しだけ自信を持って『エンディミオンの覚醒』の読書案内をしている書生。彼のポケットには「読書エフスキーより」と書かれたカセットテープが入っていたのでした。果たして文豪型レビューロボ読書エフスキー3世は本当にいたのか。そもそも未来のロボが、なぜカセットテープというレトロなものを…。
読書エフスキー
ウィンク。パチンパチン。

名言や気に入った表現の引用

書生
「一杯の茶を飲めれば、世界なんか破滅したって、それでいいのさ。by フョードル・ドストエフスキー」という事で、僕の心を震えさせた『エンディミオンの覚醒』の言葉たちです。善悪は別として。

汝の敵に対して根拠なき推量をするでない。それは致命的な判断ミスにつながりかねん

P.102

旅だちと別れはつらいものだが、経験からいって、夜の旅だちほどつらいものはない。

P.143

心の痛みにともなう別離の直後には――たとえば、家族を残して出征するときや、家族の一員と別れたとき、再会の見こみもないままに愛する者と別れたときなどには――最悪の事態を迎えてしまった以上、もう恐れるものなどなにもないという、奇妙な冷静さ、ほとんど安堵にちかい感覚をおぼえるものだ。

P.187

 痛みは興味深く、かつ不快なしろものだ。人が生きていくうえで、痛みほど徹底的かつ強烈にぼくらの意識を集中させるものはない。その反面、痛みの話ほど、聞いたり読んだりしていて退屈なものはない。

P.237

子供のころ、母が癌で死ぬところを見まもって以来、ぼくは悟ったことがある。どんなイデオロギーも野望も、どんな思考も感情も、痛みにはかなわない。

P.243

人生ではね、最大の苦しみをもたらすものは、ごくちっぽけなものであることが多いの

PP.317-318

 ぼくはこの状況下でできる、たったひとつのことをした。
 思いきり口をあけ、悲鳴をあげたのだ。

P.365

人間の心というものは、相手が興味を引く行動をとらないかぎり、たちまちその存在に慣れてしまうものらしい。

P.451

好きなだけひどい目にあわせるがいい! できるものならやってみろ、神々め!

P.455

 思い出したのは、タリアセンの図書室でアイネイアーに読むように勧められた、プラトンの逸話のことだった。プラトンの師ソクラテスは、ものを問いかけることで、人々がすでに心に宿している真実を引きだしたといわれる。そういうテクニックには、どんなに好意的に評価しても、ぼくはひどくうさんくさいものを感じてしまうのだが。

P.619

ぼくのあごは、文字どおりがくんと落ちた。というのは誇張にしても、じっさい、そんな感じだった。

P.641

もし宇宙にほんとうの宗教というものがあるとしたら、それは触れあいにともなう真実をもふくまなくてはならない。

P.678

初期の進化学者のほとんどは、進化を“目標”や“目的”という観点から考えないように注意していたのよ。それは科学じゃなくて、宗教だもの。進化の方向という概念でさえ、聖遷前の科学者にとっては禁忌だったわ。彼らはね、進化の“傾向”でしか――たびたび発生する統計的な気まぐれという概念からしか進化を語れなかったの

P.202(下巻)

生物はね、好き勝手にさせておけば……けっして愚かではないから……いつの日か宇宙をおおいつくす、ということよ

P.207(下巻)

この宇宙に真の秘密というものがあるのなら、にちがいない。愛する相手のぬくもり、合一、完全な受容を味わう最初の数秒間こそ、それにちがいない。

P.333(下巻)

ぼくのしたいことは単純明快……きみといっしょに、いつまでも過ごすことだ……どんな苦難でも乗り越えて、あらゆることを共有することだ。きみの身になにが起ころうと、自分の身になにが起ころうと、ぼくはきみを愛してる、アイネイアー

P.374(下巻)

「カレ・ペェよ」ぼくの友人はいった。「古いチベットの別れのことば。高い山へ登っていくキャラバンを見送るときにいうの。意味はこう――“もどってきたければ、ゆっくりといけ”」

P.499(下巻)

殉教なんて大きらいだ。宿命なんて大きらいだ。アンハッピーエンドのラブストーリーなんて願いさげだ

P.503(下巻)

有名人や伝説の人物本人とじかに顔を合わせてみると、その男や女には決まって、伝説には似つかわしくない、ひどく人間くさい部分があるものだ。この場合、それは司祭の大きな耳のなかに生えた、何本もの細い灰色の耳毛だった。

P.629(下巻)

創作を志す者には、どんなに長い一生でもたりないんだよ、ロール。そして、自分自身を理解し、生のなんたるかを理解しようとする者にとってもね。それはたぶん、人間であることのごうだ。それと同時に、至福でもある

P.645(下巻)

見えていなかったのではない。きみは……恋をしていたんだ

P.681(下巻)

そうとも、暗黒の岸辺にも光は射し
どんな絶壁にも人に踏まれぬ緑が生える
夜半に花咲く蕾もあるように
盲者の心の目には、常人の三倍もが見える……

P.697(下巻)

読書エフスキー
引用:『エンディミオンの覚醒』ダン・シモンズ著, 酒井昭伸翻訳(早川書房)

エンディミオンの覚醒を読みながら浮かんだ作品

イリアム
4.3

著者:ダン・シモンズ
翻訳:酒井昭伸
出版:早川書房
ページ数:1350ページ(上下巻)

読書エフスキー
おや?ダン・シモンズの『イリアム』ですか。
書生
ハイペリオンシリーズと同じ訳者の酒井昭伸さんが翻訳している作品で、今度はホメーロスの叙事詩『イリアス』を軸に物語が作られています。ハイペリオンシリーズと同じように『オリュンポス』という続編があります。ダン・シモンズが気に入ったのなら是非!

レビューまとめ


ども。読書エフスキー3世の中の人、野口明人です。最近、羽二重餅にハマっています。

いやー、ついに終わってしまいました。ハイペリオンシリーズ。まずは一言。

SF小説って面白い!

ハイペリオンシリーズにはそう思わせる何かがありました。

もちろん、今までもSFって面白いジャンルなんだなぁと思わせる作品はありました。

しかし、それらは実は僕の中ではSFとは認識していなかったのです。

かの有名なスター・ウォーズも観ていませんし、猿の惑星も観ていなければ、2001年宇宙の旅でさえ、小説、DVDともに本棚に眠ったまま。

なのにタイムマシンだけはちょっとだけ好きで、『バック・トゥー・ザ・フューチャー』のようなタイムスリップものだけは「あれはSFではなくタイムスリップという一つのジャンルだ」とかなんとか言って受け入れているクソ野郎なのです。

前にこのブログでレビューをした、猫小説と呼ばれる『夏の扉』もSF小説ですが、あーゆータイムトラベル的なものは好き。

なのに未だにSFは苦手という意識が取れなかった。

しかし、今回ハイペリオンシリーズを読んで僕はわかりました。SF作品の何が苦手だったのかを。

宇宙でドンパチやって、人のよく死ぬSF作品が嫌だったのです。宇宙の壮大なスケールのもと、ちっぽけな人類がゴミのように散っていくっていうイメージが嫌だったのです。

ただ、ハイペリオンシリーズを読んでもらえばわかりますが、このシリーズ、まさに「それ」です。

壮大な宇宙でドンパチやって、人がよく死にます。

でも。でもですね、そんな人がよく死ぬSF小説ですが、なぜかむちゃくちゃ面白いのです。

それはまるで子供が初めてピーマンの肉詰めに出会った時のような衝撃

ピーマンは苦手なのに、好きなハンバーグが中に詰まっていると、苦手だと思っていたピーマンでさえ、ハンバーグをさらに美味しく感じさせる要素に思えてくる。

そんな感じなのです。

人間が機械に滅ぼされそうになる。命が命のないものに滅ぼされそうになって初めて、命とは何なのだろうと考える。

人間らしさとは何なのだろうかと。人と機械を隔てているものは何なのかと。

例えばそれは「心」と答える人もいるでしょう。

ところがハイペリオンシリーズにはその両極端に位置する存在が登場します。

A・べティックは青い肌のアンドロイドですが、言葉も喋り、彼は非常に人間らしく描かれています。

一方、シュライクは言葉も話さず、無機質でまさに機械そのもの。

その場合、A・べティックは人間でシュライクは機械という事になるのでしょうか。

例えばそれは「命」と答える人もいるでしょう。

命はいつか失われる有限なもの。機械はエネルギーさえあれば動き続ける無限なもの。

しかしこの作品には何度も復活する聖十字架の力があります。「死ぬ」ことがなくなったら、命が無限になったなら、人間は人間ではなくなるのでしょうか。

ハイペリオンシリーズはシリーズを通して、様々な形で「人間らしさ」とは何なのかを考えさせられます

もしかしたら僕ら人間は、心のどこかで地球は万能でいつまでも壊れないものと思っているかもしれない。

もしかしたら僕ら人間は、心のどこかで人類が地上で一番の存在で、滅ばないものだと思っているかもしれない。

もしかしたら僕ら人間は、心のどこかで自然や生き物や機械などが、すべて人間に利用されるために存在していると考えてしまっているのかもしれない。

そんな心の思い込みや幻想に問題提起するには、もしかしたらSFというジャンルが一番適しているのかもしれないなぁ〜なんて事をハイペリオンシリーズを読んで思いました。

SFの要素全部入り

宇宙船はもちろんの事、ガンやレーザーも出てくるし、どこでもドアやタイムトラベル的なもの、瞬間移動さえ出てくる。

ロボットもUMA(未確認動物)も、未来人、ミュータント的なのだって出てくる。

科学や宗教も扱って、魔術や神話、超能力まで何でもござれ。サンバーパンクな世界観かと思いきや、魔法のじゅうたんのようなレトロなものまで扱っている。

思いつくありとあらゆるSF要素がハイペリオンシリーズに詰まっているのです。

もう、これを読み終えることが出来たのなら、そしてそれを面白いと思ったのなら、SFは大好きだと言ってもいいでしょう。

うん。

僕はSF作品が大好きです。SFは美味しいピーマンでした。

『エンディミオンの覚醒』は上下巻合わせて1400ページ以上の長編ですが、読んでいるうちに、早く最後まで読みたいという気持ちと、もう終わっちゃうのかよという気持ちが入り混じりました。

面白い作品とはいつもそう。そして読み終わったあとのロスがすごい

振り返ってみると4000以上ものページをめくったわけですが、長いようであっという間の読書タイムでした。

さあ、次は何を読もうか。

当分の間はSFはいいかなという気持ちと、次もSFがいいという気持ち、どちらも本音です。

とりあえず長門有希の100冊から選んで次もレビューしたいと思います。

ではでは、そんな感じで、『エンディミオンの覚醒』でした。

…レビューまとめと言いつつ、全然まとまっていない(汗)

ここまでページを閉じずに読んで頂いて本当にありがとうございました

面白かった!と思ったあなたは是非別の記事も読んでいただけると嬉しいです。

最後にこの本の点数は…


エンディミオンの覚醒 - 感想・書評

エンディミオンの覚醒
4.7

著者:ダン・シモンズ
翻訳:酒井昭伸
出版:早川書房
ページ数:1420ページ(上下巻)

エンディミオンの覚醒
  • 読みやすさ - 78%
    78%
  • 為になる - 86%
    86%
  • 何度も読みたい - 90%
    90%
  • 面白さ - 96%
    96%
  • 心揺さぶる - 93%
    93%
89%

読書感想文

ハイペリオンシリーズ、最終作品。もし3つの作品をすべて読んで楽しめたのなら、きっとこの作品も楽しめるはず。少々読みにくさはあるものの、心揺さぶるシーンがたくさん詰め込まれています。読み終えたあとの、心地良くも寂しさ漂うハイペリオンロスは何年後かの再読を呼び起こしそう…。

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