リプレイ_ケン・グリムウッド

『リプレイ』を読むと、自分の人生は間違っていないと思える

リプレイ - 書籍情報
  • 著者:ケン・グリムウッド
  • 翻訳者:杉山高之
  • 出版社:新潮社
  • 作品刊行日:1987/01
  • 出版年月日:1990/07/27
  • ページ数:474
  • ISBN-10:4102325018

BOOK REVIEWS

リプレイという本をその昔2冊買いました。STEINS;GATEというPCゲームにハマり、ループものおもしれー!となっていた時に、ループものの小説ではリプレイが面白いと噂を聞いていたのです。そこで古本屋でリプレイを発見し買ってきたのですが、家に帰るともうすでにリプレイは本棚に並んでいたのでした。

あー、昔にネットで注文したのを忘れて同じものを二つ買ってしまったか。自分が買った本を覚えていないぐらい文庫本収集をしている者の常として、本を読むペースよりも本を買うペースの方が早くなってしまい、その2冊のリプレイはずっと読まずに本棚の中で眠る事になります。

そして最近、ずっと恩田陸の作品を読んでいた事だし、気分転換に別の作家を読んでみようと本棚を見直したのですが、どこにもリプレイがないのです。二冊あったはずのリプレイ。一体どこへ。ないとなると途端に読みたくなってしまった僕は探すことを早々に諦め、三冊目のリプレイを購入しました。

最初の購入から6年。やっとこさリプレイを読破したのですが、なんで先にこの本を読まなかったのかと後悔しました…

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小説『リプレイ』 – ケン・グリムウッド・あらすじ

リプレイ
3.7

著者:ケン・グリムウッド
翻訳:杉山高之
出版:新潮社
ページ数:474

1988年10月18日午後01時06分。43歳の放送ジャーナリスト、ジェフ・ウィンストンは会社のオフィスで妻のリンダと電話をしていた。「私たちに必要なのは―」そうリンダに告げられた時、心臓に激痛が走り心臓発作で突然の死を迎えてしまう。しかし、次の瞬間、母校の学生寮にジェフはいた。25年前の1963年。そこから再びジェフは人生をやり直すのだが…。SF三大賞である世界幻想文学大賞を1988年度に受賞。同年にはスティーヴン・キングの『ミザリー』も候補に上がっていた中での受賞した作品がケン・グリムウッドの『リプレイ』である。

読書エフスキー3世 -リプレイ篇-

文豪型レビューロボ読書エフスキー3世-リプレイ
前回までの読書エフスキーは

あらすじ
書生は困っていた。「自分の人生は自分で変える!」と仕事中に寝言を言ったせいで、独り、無料読書案内所の管理を任されてしまったのだ。すべての本を読むには彼の人生はあまりに短すぎた。『リプレイ』のおすすめや解説をお願いされ、あたふたする書生。そんな彼の元に22世紀からやってきたという文豪型レビューロボ・読書エフスキー3世が現れたのだが…

リプレイ -内容紹介-

無料読書案内の書生
無料読書案内の書生
大変です!先生!ケン・グリムウッドの『リプレイ』の事を聞かれてしまいました!『リプレイ』とは一言で表すとどのような本なのでしょうか?
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
“ループもの小説のお手本のような作品”デスナ。
無料読書案内の書生
無料読書案内の書生
…と、言いますと?正直な所『リプレイ』は面白い本なのでしょうか?

ジェフ・ウィンストンが死んだのは、妻と電話をしている時だった。

引用:『リプレイ』ケン・グリムウッド著, 杉山高之翻訳(新潮社)

読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
コンナ一文カラ始マル“ケン・グリムウッド”ノ1987年の長編小説デス。読メバワカリマス。
無料読書案内の書生
無料読書案内の書生
えーっと、それでは困るのです。読もうかどうか迷っているみたいですので。ちょっとだけでも先生なりのご意見を聞かせていただきたいのですが。
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
読む前にレビューを読むと変な先入観が生マレテシマイマスノデ…
無料読書案内の書生
無料読書案内の書生
ええい、それは百も承知の上!先生、失礼!(ポチッと)
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
ゴゴゴゴゴ…悪霊モードニ切リ替ワリマス!
無料読書案内の書生
無料読書案内の書生
うぉおおお!先生の読書記録が頭に入ってくるぅぅー!!
リプレイ_批評

リプレイ -解説-

読書エフスキー3世
読書エフスキー
ループものって今じゃSFの定番のテーマですよね。
無料読書案内の書生
書生
そーですね。タイムマシンだったり、電脳による時空転移だったり、魔法や超常現象的なものによる時間移動などなど方法はたくさんありますが、ループものは使い古されたと言っていいぐらい定番なテーマだと思います。
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
その使い古されたテーマにあえて挑戦し、成功している作品がリプレイなのです。まぁこの小説自体がちょっと昔のものではあるのでその当時は新しかったのかもしれませんが。
無料読書案内の書生
書生
ほほう。“リプレイ”ってのは繰り返しって事ですよね。これは何系のループなんです?
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
これは人生を丸々繰り返す系のループです。タイムマシンに乗ったりせず、死んだらまた若い頃に戻り人生をやり直すんですね。
無料読書案内の書生
書生
人生丸々ですか。それって結構長い期間だと思うんですけど、ゴールは一体何なんです?
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
ゴールですか。うーむ。この作品にゴールはありません。
無料読書案内の書生
書生
え!?
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
え!?
無料読書案内の書生
書生
いやいや、他の作品でもあるじゃないですか。たとえばバック・トゥー・ザ・フューチャーなら偶然過去に行ってやってしまった事による影響を元に戻すとか、STEINS;GATEもみんなが死なない世界線を見つけ出すとか…。
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
うーん。この作品はですねデロリアンも電話レンジもありません。タイムマシンがある作品は、それを作った人がどこかにいるわけで博士的な人がいてタイムスリップの説明をしてくれますよね。でもリプレイにはそういう博士がいないのです。
無料読書案内の書生
書生
…と言うことは?
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
博士がいなければ現象の原因がわからない。神的な力によって何度も何度も人生をやり直させられてしまう。もしそんな状況になったとしたらキミならどうします?
無料読書案内の書生
書生
僕ならですか。うーむ。とりあえずあれですね、大金を得ます。大金持ちになってウハウハな人生を送る!!
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
期待通りの答えありがとうございます!
無料読書案内の書生
書生
!?
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
この小説の主人公ジェフ・ウィンストンもですね、妻リンダと会話している時に死んで、大学生に若返った時に現象の意味はよく理解出来なかったけれど、どうやら同じ時間を繰り返しているようだと把握して、自分の記憶の中からなんとか絞り出して馬や株で大金を手に入れるんですよ。やっぱり人間、最初に思いつくのはお金なんですよね。
無料読書案内の書生
書生
お金は大事!それで大金を手にした後ジェフはどうしたんです?人生勝ち組な気がするんですが。
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
ループものの常としてバタフライ・エフェクトってあるじゃないですか。
無料読書案内の書生
書生
ええ。小さな変化でも時間をかけて大きな影響力を持ってしまう的なやつですよね。ブラジルの蝶の羽ばたきがテキサスで竜巻を巻き起こすっていう説から生まれたバタフライ効果。
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
それの影響で奥さんのリンダとの最初の出会いで失敗してしまうんですよね。大金は手にしたけれど恋愛で失敗する。
無料読書案内の書生
書生
ほほー。お金も大事だけれど恋愛も大事!でもまぁ、アレじゃないですか。リンダじゃない人と上手く行く可能性だってあるじゃないですか。
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
そうです。ジェフはお金には困らない生活を送るようになった。しかしリンダとの出会いに失敗。その後いわゆる上流階級の女性と出会い結婚。
無料読書案内の書生
書生
リンダの事は残念でしたけど、まさに勝ち組街道まっしぐらじゃないですか。
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
そして、その奥さんとの間に子供が出来る。
無料読書案内の書生
書生
もう順風満帆とはこのことか!羨ましすぎる!お金はあるし家庭もある!!
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
ジェフは新しい奥さんとはちょっと冷めた関係ではありましたが、この子供を愛していました。この人生を謳歌していたのです。ところが。
無料読書案内の書生
書生
ところが?…嫌な予感。
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
第一の人生を終えた時間と同じ時間がやってきた時、同じように心臓に痛みを感じ、ジェフはそのまま息絶えてしまいました。
無料読書案内の書生
書生
マジかよ…。人生最大の幸福、いやその幸福もまだまだこれからって時じゃないですか。やり直しの人生、まさにベストチョイスで何も間違いなく選んできたじゃないですか!!
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
そしてまたジェフは大学生の頃に戻る。
無料読書案内の書生
書生
なんですと!?またもや人生をやり直さなければならないのですか!!一体何が悪かったんですか。トゥルーエンドルート通って来たでしょう!
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
ジェフは何よりもまず子供がいなくなってしまった事を悲しみました。二度と逢えない子供。もうこんな事は嫌だと去勢手術までも受けてしまう。
無料読書案内の書生
書生
なんと…。
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
…まぁ、このリプレイという作品はゴールがないというか、どれだけハッピーなエンディングを迎えたとしても無に返されてしまうわけです。
無料読書案内の書生
書生
うう。こういうループ作品って人生をやり直して大切なことに気がつくっていう感じじゃないですか。その教訓的な事さえ許されないのですか。
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
そうですよね。私が好きな芥川龍之介の杜子春もお金を手に入れては豪遊して、何もかも失い、またお金を手に入れて、またもや失い、最終的には親が大切だっていう教訓を得ますよね。
無料読書案内の書生
書生
そうです。あれも仙人になる道を諦めて、それよりも母親が大切って気付かされるじゃないですか。ジェフは一体何を学べばいいのですか!!神様的なやつは一体どんな理由でジェフに長い人生をやり直させるんですか!
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
この作品、実に起承転結がうまい作品でしてね、今話をした所もまだ「起」の部分なんですよ。
無料読書案内の書生
書生
え…。まだ導入部分なんですか!?結構長い人生歩んだでしょう?
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
まだまだ導入部分です。ジェフはね、前回の人生で絶望こそしましたが、教訓は得たのです。私利私欲の為にリプレイを利用しましたが、今度の人生は決して大金を稼がず堅実に生きようと。もしかしたらそういう部分が神の怒りに触れたのかもしれないと。
無料読書案内の書生
書生
ほほう。
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
ジェフいわく一番大変だったのはお金を稼ぎすぎないように調整する事だったと言います。未来がわかっているわけですから、投資さえしてしまえばいくらでもお金が稼げてしまう。それをちょうどいい感じの収入に調整するのが難しかったと。
無料読書案内の書生
書生
なんと羨ましい悩み。
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
それで今度は死ぬ直前に、万全の準備をして備えるのです。
無料読書案内の書生
書生
同じ時間に心臓の痛みで死んでますからね。それに備えるって事ですね。
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
ええ。…が、この試みも失敗に終わります。病院で万全の体制を敷いていたにもかかわらずジェフはやはり過去に戻されてしまった。
無料読書案内の書生
書生
絶対的な世界線を越えられないんですね…。
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
何度も何度も死ぬ。同じ時刻に何度も。どんなに善行を積んだとしても、同じ時刻に死んでしまう。もうなんの教訓もない。ひとつわかった事は自分は無力だと言うこと。
無料読書案内の書生
書生
未来がわかっていたとしても、死ぬ事がわかっているのであればやる気もわきませんね…。
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
そしてジェフは自暴自棄を迎える。
無料読書案内の書生
書生
あぁ…。越えられない壁がやってきてしまった。でも、僕は結構好きなんですよね。その頃の主人公の心境が。その越えられない壁をなんとかして乗り越えていく姿勢が。
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
…が、この物語はその壁は乗り越えません。
無料読書案内の書生
書生
えーっ!?
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
ジェフは相変わらず死にまくるのです。…まぁ、ここから急展開を迎えますが、この先は実際に読んでもらうって事で。
無料読書案内の書生
書生
えーーっ!?!?一番いい所なのに!!
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
いえいえ、一番いい所はまだまだ後ですよ。実に読み応えがある作品でした。今話をした所もまだ起承転結の「承」の部分ですから。とにかくストーリー展開が面白いんですよ。王道のテーマを扱いながらも古臭くないのは実にこのストーリーがいいからだと思います。これが何十年も前に書かれたものだって事に驚くほどです。
無料読書案内の書生
書生
そーなんですね。僕も結構いろいろなループものを触ってきましたが、基本的には同じ流れでしたからね。バッドエンドかハッピーエンドかは別れていましたがだいたい同じ流れを別の主人公が歩んでいくストーリーでした。
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
他のループものと違うのは、同じことの繰り返しから抜け出せないループ、一つの悪い部分を正すための奮闘記というよりも、永遠に生き続けるって感じですかね。ループものではありますが、毎回毎回別の人生を歩む。そして最後には無に返される。他の人よりも長く人生を生きるとしたら人は一体何を考えるのか。そんな哲学的な小説ですね。
無料読書案内の書生
書生
お金も名声も家族でさえも最後には無に返っちゃうのか…。うーむ。僕は一体何を考えるだろう。
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
時代背景的に1960年〜1980年ごろの史実なども書かれていますので、そこらへんの事を知っているとより楽しめると思いますね。私的には若い頃に読むというより、ちょっと大人になった時に読んだ方がこの小説は面白いのでは?って感じます。
無料読書案内の書生
書生
まー、実際に僕が人生をやり直せたとしても、そこらへんの年代の世界情勢をあんまり記憶していないので、お金持ちになることは難しそうです。
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
そこですよね。リプレイ出来たとしても、よりよい人生になるとは限らないのです。人の記憶力には限界もありますし、その都度、別のチョイスをすれば別のバタフライ・エフェクトが起きる。私はこの小説を読んで、自分の人生をやり直せたら…なんて考えるのを辞めましたよ。
無料読書案内の書生
書生
過去の何か一つでも変わってしまったら今が変わっちゃいますもんね。
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
なんだかんだで今の自分好きなんですよね。
無料読書案内の書生
書生
自分大好き!自分の人生は自分で変える!

批評を終えて

読書エフスキー
読書エフスキー
以上!白痴モードニ移行シマス!コード「ケムール・ボボーク・ポルズンコフ!」
無料読書案内の書生
無料読書案内の書生
「自分大好き!自分の人生は自分で変える!」…って、あれ?僕は一体何を…。
職場の同僚
職場の同僚
何をじゃないよ!仕事中に居眠りこいて!なにが「自分大好き!」だよ。自分の睡眠事情でさえ変えられてねーじゃねーか。
無料読書案内の書生
無料読書案内の書生
え?あれれ?読書エフスキー先生は?
上司
上司
誰だそれ。おいおい。寝ぼけ過ぎだぞ。罰として一人でここの案内やってもらうからな!
無料読書案内の書生
無料読書案内の書生
えーっ!?一人で!?で、出来ないですよ〜!!
上司
上司
寝てしまったお前の罪を呪いなさい。それじゃよろしく!おつかれ〜
無料読書案内の書生
無料読書案内の書生
ちょっ、ちょっと待って〜!!…あぁ。行ってしまった。どうしよう。どうかお客さんが来ませんように…。
お客さん
お客さん
…あのすいません、リプレイについて聞きたいんですが。
無料読書案内の書生
無料読書案内の書生
(さ、早速お客さんだーっ!!ん?でも待てよ…)いらっしゃいませー!ケン・グリムウッドの作品でございますね。おまかせくださいませ!
ブックレビューテープ
 あとがき


いつもより少しだけ自信を持って『リプレイ』の読書案内をしている書生。彼のポケットには「読書エフスキーより」と書かれたカセットテープが入っていたのでした。果たして文豪型レビューロボ読書エフスキー3世は本当にいたのか。そもそも未来のロボが、なぜカセットテープというレトロなものを…。
読書エフスキー
読書エフスキー
ウィンク。パチンパチン。
リプレイレビューお終い

名言や気に入った表現の引用

リプレイの名言
無料読書案内の書生
書生
「一杯の茶を飲めれば、世界なんか破滅したって、それでいいのさ。by フョードル・ドストエフスキー」という事で、僕の心を震えさせた『リプレイ』の言葉たちです。善悪は別として。

「私たちに必要なのはね」彼女は彼の方向を見たが、必ずしも目を合わせずにいった。
「新しいシャワーカーテンなのよ」

彼はぱっと上半身を起こした。耳の中に脈拍の音が聞こえた。

未来――恐ろしい伝染病、成功しそれから覆される性の意識革命、宇宙での勝利と悲劇、革と鎖とを身にまとい、毬のようなピンクの頭髪に、虚ろな目をしたパンクどもがうろつく街路、汚染され窒息しかかった地球の軌道を回る殺人光線兵器……なんと、このように見ると、自分の世界はまるでサイエンス・フィクションの最もおどろおどろしい悪夢のように思われるではないか。ジェフはそう思って身震いした。いろいろな点で、彼が慣れっこになってしまった現実は、一九六三年初期の明るい純真な現実よりも、むしろ、『ブレード・ランナー』のような映画と共通点が多かった。

自分の“未来過去”のことを考えない瞬間さえもあった。彼は生きていた。それが重大だった。非常に生き生きしていることが。

ジョンソン大統領が間もなく、この血なまぐさい週末の事件を徹底的に捜査するように命じることを、ジェフは知っていた。アール・ウォレン裁判長のもとに特別委員会が設置され、解答が熱心に探し求められるだろう。何も見つからないだろう。人生は続いていくだろう。

シャーラはファンタジーの中のファンタジーであり、回復した青春にふさわしい、欲望をくすぐる呼び物だった。だが、それは基本的に空虚な出し物であって、あの学生寮の部屋の壁に貼ってあった闘牛のポスターのように、実質と複雑さを欠いた子供だましだった。

彼は人生の大部分をやりなおす機会を与えられた。しかし、この一日をもう一度やりなおすことができたら、そのすべてを犠牲にしてもいいと思った。

貴重な無知だ、と彼は思った。発狂した宇宙が加えることがある傷について、知らないとは何とありがたい恵みだろうか。

もはや、壊すべき橋はない。娘の死という苦悩、決して存在しえないものを知っているという苦悩にもかかわらず、前進し、建設することを学ばなければならない、と彼は思った。

「ばかやろう!」彼は無感覚な空に向かって怒鳴った。あの終末病院のベッドからでは表現できなかった、力と絶望のすべてをこめて怒鳴った。「ばかやろう! なぜ……こんな……ことを……俺に……するんだ!」

サイクル、輪……その宇宙の連鎖の中に彼の場所はなかった。ジェフという、時間から外れた特異な存在に適合するパターンはなかった。

しばらくの間は性的接触なしに、完全に快適に生活することができそうに思われた。そして、自分のその部分を殺すことがいかに容易かを知って驚いたものだった。ところが、間もなく、単純な人間的接触への欲求がいかに強いか分かって不愉快な驚きを感じた。人間的接触の無いことが毎日の苦痛になり、寝ても覚めても気になった。

自分の生に何らかの意味を与えたいだけよ。これにどんな意味があるか考えようともせずに、諦めるつもりなの? ではどうぞ、そうしなさいよ! 馬鹿げた農場に帰って、無為に暮らすといいわ。でも、このすべてを私がどう扱うべきか、指示するのは止めて。いいわね?

「いや、出掛けよう。夕食は僕がおごる」「では……また着替えをしなくてはならないわ」「ジーンズでけっこう。恰好をつけたければ、靴をはくだけでいいさ」

私たち二人とも受け入れるべきものがたくさんあり、失わねばならないものもたくさんあるのね

あなたの家族を愛して上げなさい、と心に思った。この世には苦痛が満ちているから。

待てば、その苦しみを上回る良い事があるわ

我々はいつも受け入れてきた。いちばん最初からだ。マンソン、バーコウィッツ、ゲイシー、ブオノとビアンキ……こういう種類の無目的な蛮行は、この時代の一部なのさ。我々はそれに慣れてきた。僕は次の二十年間に次々現れる連続殺人犯人の名前を、半分も覚えていない。君だってそうだろう?

我々は――単に君と僕だけでなく、この社会の誰もが――蛮行とともに、でたらめな死とともに、生きている。自分の身に直接、脅威が降りかからなければ、ほとんどそれを無視している。さらに悪いことに、ある人々はそれを面白いとさえ感じ、代償的なスリルと感じる。少なくとも、ニュースビジネスの八十パーセントはそのためにあるようなものだ。毎日一定量の悲劇を、他人の血と苦悶を、アメリカに供給するのが仕事なのさ。

今度はもっと良い世界に、もっと安全な場所にするつもりだったのに――ところが、私たちが実際に心配するのは自分たちのことばかり。私たち自身の大切な小さい生命がどのくらい伸びるかを、知ることばかりよ。しかも、それさえもすることができない

戦争を起こしなさいよ、このくそ惑星全体を吹っ飛ばしなさいよ!

何十年ものあいだ記憶の中に住み、そして今、愛らしい輝きのすべてを備えて再生され、目の前に立っているこの貴重な幻を、一瞬も見失いたくなかったので、瞬きをすることさえできなかった。あまりにも長かった。本当に長い間だった……

人間は等しく、自分が生きてきた過去の年月から、そして、過去の自分自身、過去の知己、永久に失われてしまった人々から、追放されることは避けられないのだ。

私、無限の可能性に、“時間”というものに……あまりにも慣れてしまった。決して自分たちの過ちに拘束されず、後戻りして物事を変えることができる、もっと良くすることができると、常に知っていた。でもだめだったわね? 物事を変えただけね

彼女の人生にとっては、新しく圧倒的であり、前例のない重大事であるかもしれないが、実際はごく平凡な若者の悩みと憧れにすぎなかった。本人は、自分の話がごくありふれたものだと認識するだけの、広い視野に欠けていた。もっとも、そういう認識の閃きみたいなものは確かにあったかもしれない。なぜなら、自分の生活が月並みになっているから、何とかして抜け出したいのだと、少なくともいっていたから。

彼女に与えることのできる最高の贈り物は、嘘である。

唯一の確実な失敗――それも、最も悲しむべきもの――は、全然危険を冒さないことだと知った。

一瞬も無駄にしないことにしよう。当然のこととして受け取るのを止めよう。

自分に残されている四半世紀ぐらいの年月は、自分の人生であり、自分の思う通りに生き抜くべきものであり、また、自分自身にとって最も為になるように生きるべきものだ。それ以外を優先させてはならない――仕事も、友情も、女性との関係も。それらはすべて人生の構成要素であって、価値あるものではあるが、人生を限定したり、コントロールしたりすべきものではない。自分の人生は自分の責任であり、自分だけのものだ。

読書エフスキー3世
読書エフスキー
引用:『リプレイ』ケン・グリムウッド著, 杉山高之翻訳(新潮社)

リプレイを読みながら浮かんだ作品

恋はデジャ・ブ
4.6

ジャンル:コメディー, ロマンス
監督:ハロルド・ライミス
主演:ビル・マーレイ, アンディ・マクダウェル

読書エフスキー3世
読書エフスキー
映画『恋はデジャ・ブ』ですか。1993年の作品ですね。
無料読書案内の書生
書生
何回も人生をやり直させる物語です。最後にループを抜け出した時の主人公の喜びには涙が流れたのを思い出しました。

レビューまとめ

リプレイまとめ

ども。読書エフスキー3世の中の人、野口明人です。

この小説について調べている時にですね「KinKi Kidsの堂本剛、パクり」ってのが随所で見受けられたんですよ。一体何のことか?って思ったら彼が出演した「君といた未来のために 〜I’ll be back〜」ってTVドラマが完全にこの小説の流れなんですね。

どうやら事後承諾をもらったみたいで、パクリ問題は落ち着いたらしいですが。

んで、僕の記憶を探ってみるとですね、このドラマ観ているんですよね。若い頃に。確かに面白かった記憶があります。あの頃の土曜21時の日テレドラマは全部観ていたんです。

なぜなら、知念里奈の大ファンでして22時のTHE夜もヒッパレを観るために。ファンはドラマ終了後の「この後は…THE夜もヒッパレ!」まで録画するもんなんです!

もしかしたらあの頃から僕はループものが好きだったのかもしれない。どっちもループものですから(笑)

あぁ。懐かしいなぁ。夜もヒッパレ。SPEEDのグループ名もあの番組内で決めましたし、上戸彩が入っていたZ-1もちょこちょこ出てたんですよね。伝説の番組だったわぁ。僕の姉は「毎週、芸能人のカラオケ観てなにが楽しいの?」なんて言ってきて、僕はその都度キレてましたが。

思春期真っ盛りだったなぁ。もし戻れるとしてもやっぱりあの番組は観ちゃうだろうな。

…と、話が脱線してしまいましたが、リプレイを読むとやっぱり自分の人生を振り返っちゃいますね。もしもう一度人生をやり直せるとしたら…。誰もが一度は考えるでしょう?

そしてこの小説を読んで、やっぱり自分の人生は間違っていないんだなぁと気付かされました。うん。今の自分でいい。やり直せたとしても、失敗は沢山ありましたが僕は同じ人生を繰り返したいです。

今、僕と関わってくれている人って過去の失敗がなければ出会ってすらない人達ばかりなので。それがなくなっちゃうのは嫌だな。自分の人生のめぐり合わせに感謝せねば。

ではでは、そんな感じで、『リプレイ』でした。

ここまでページを閉じずに読んで頂いて本当にありがとうございます

最後にこの本の点数は…

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リプレイ - 感想・書評

リプレイ
3.7

著者:ケン・グリムウッド
翻訳:杉山高之
出版:新潮社
ページ数:474

リプレイ¥ 853
  • 読みやすさ - 73%
    73%
  • 為になる - 82%
    82%
  • 何度も読みたい - 71%
    71%
  • 面白さ - 84%
    84%
  • 心揺さぶる - 81%
    81%
78%

読書感想文

今となっては定番すぎるループもの作品ですが、王道のテーマでありながらストーリー展開が素晴らしく飽きずに読めると思います。ただまぁ、随所に歴史的史実やその当時のニュースや娯楽が出てくるので、事前知識は必要になってくるかもしれません。自分の人生について振り返り、大切なものは何かを教えてくれる哲学的作品。ラストも他のループものに比べて劇的なものではないですが個人的には好きです。

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リプレイ_ケン・グリムウッド
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