- 著者:ポール・オースター
- 翻訳者:柴田元幸
- 出版社:新潮社
- 作品刊行日:1999/10/01
- 出版年月日:2001/12/01
- ページ数:329
- ISBN-10:4102451064
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偶然の音楽というタイトルを見て、あなたはどんな物語を思い浮かべるでしょうか。またこの本の表紙を見て、どのような内容を連想するでしょうか。
ポール・オースターの7番目の小説であるこの作品を目にした時、その表紙のカッコ良さもあって、僕は期待に胸を膨らませました。
偶然の音楽。“偶然”の連続が非常に魅力的だった『ムーン・パレス』の次に書かれた作品。こりゃーもう期待するしかないっしょ!と僕は思ったのです。
…が、しかし。
思っていたのと全然違う!読み終わった後でも、どうもタイトルがピンとこない。
確かに偶然から引き起こされた出来事で物語は進んでいく。確かに物語の途中途中でクラシックやジャズの流れるシーンはある。
だが、偶然の音楽。この言葉や表紙から想像される爽やかなイメージではないのです。
僕の頭に残るのは、壁、壁、壁。
この物語は赤い車から始まり、壁を経て、赤い車で終わる。
まったく『偶然の音楽』というイメージが割り込んでくる余地がない。そういう物語なのです。
もし今、あなたに莫大な遺産が転がり込んできたら、そこからどのような人生を送るでしょうか。この『偶然の音楽』の主人公はそこから破滅の道を進んでいくのです。
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小説『偶然の音楽』 – ポール・オースター・あらすじ
読書エフスキー3世 -偶然の音楽篇-

あらすじ
書生は困っていた。「もうビデオデッキなんて持っていないよ…。トホホ」と仕事中に寝言を言ったせいで、独り、無料読書案内所の管理を任されてしまったのだ。すべての本を読むには彼の人生はあまりに短すぎた。『偶然の音楽』のおすすめや解説をお願いされ、あたふたする書生。そんな彼の元に22世紀からやってきたという文豪型レビューロボ・読書エフスキー3世が現れたのだが…
偶然の音楽 -内容紹介-



まる一年のあいだ、彼はひたすら車を走らせ、アメリカじゅうを行ったり来たりしながら金がなくなるのを待った。こんな暮らしがここまで長く続くとは思っていなかったが、次々にいろんなことがあって、自分に何が起きているのかが見えてきたころには、もうそれを終わらせたいと思う地点を越えてしまっていた。十三か月目に入って三日目、ナッシュはジャックポットと名のる若者に出会った。それは誰にも覚えのある、何もないところから不意に生じるように思えるたまたまの出会いだった。風に折られて、忽然と足下に落ちてくる小枝。
引用:『偶然の音楽』ポール・オースター著, 柴田元幸翻訳(新潮社)







偶然の音楽 -解説-









































































































批評を終えて











いつもより少しだけ自信を持って『偶然の音楽』の読書案内をしている書生。彼のポケットには「読書エフスキーより」と書かれたカセットテープが入っていたのでした。果たして文豪型レビューロボ読書エフスキー3世は本当にいたのか。そもそも未来のロボが、なぜカセットテープというレトロなものを…。


名言や気に入った表現の引用


くたばったあともこの世にいられるといいんだがな。金が入ったらあいつらどんな顔をするか、さぞ見ものだろうよ
p.8
どうせならトンカチにしてくれ。お前の頭に分別のひとつも叩き込めるかもしれんからな
pp.16-17
ボールドウィンを彼に四五〇ドルで売る話をまとめた。翌朝に引越し業者が来たころには、もうその金はカーステレオ用のテープに使ってしまっていた。ひとつの音楽の形を、別の形に変える。いい使い方だ、と思った。その交換の効率性が快かった。
p.19
金は彼の自由。保障してくれるが、金を使ってさらに自由のひとかけらを買うたびに、同量の自由を彼から奪うことになるのだ。
p.28
他人のなかにひとたび自分を認めると、もうその人間が他人に思えなくなってくる。好むと好まざるとにかかわらず、そこには絆が生じる。
p.75
まあ何も起こりはしないだろうが、と同時に、何ごとも当然と思ってはいけない気もした。
p.81
もしポッツィが何も言わなければ、要するにそれは、口だけの奴だったということだ。この逆説の対称性をナッシュは面白く思った。言葉がゼロなら、すべては言葉ということ。すべては言葉なら、見せかけとハッタリとごまかしにすぎないということ。
p.82
「心配するな、任しとけって。俺は大当たり小僧だぜ、覚えてるか? 俺が何を言ったって大丈夫なのさ。言う人間が俺であるかぎり、何もかもうまく行くのさ」
p.88
いまとなっては自分の身に起ころうとしていることに自分が関与していないような気分だった。では、自分の運命にもはやかかわっていないのだとすれば、俺はどこにいるのか? 俺という人間はどうなってしまったのか? ひょっとすると俺は、天国と地獄の中間にあまりに長くとどまりすぎたのかもしれない。そのせいで、いまこうして自分を見つけ出す必要が生じても、もはや何も取っかかりが残っていないのだ。ナッシュは突然、自分の内部が死んでしまったような、自分の感情がすべて使い尽くされてしまったような気分に襲われた。怖くなった方がいい、と頭では思ったが、破滅を思い描いても恐怖を感じることはできなかった。
p.90
幸運というものは不運と同じくらい人をとまどわせる。何千万ドルもの金が文字どおり空から降ってきたら、それが本当に起きたことを自分に納得させるためにも、何度もくり返し話さずにはいられないのだろう。
p.107
宝くじなんか買ったのは、もし万一当たったら賞金を何に使うかを話すのが楽しかったからだと思うんですよ。それがわしらの気晴らしだったんです。スタインバーグズでサンドイッチを食べながら、突然運が巡ってきたらどんな暮らしをするか、いろんな物語をひねり出す。罪のないささやかなゲームですよ。そうやって思いつくままにいろんな事を考えるのが面白かったんですな。何ならセラピー効果があると言ってもいい。いまとは違う人生を想像することで、心が元気になるんだ
p.108
もちろんわしは、商売柄ずっと数字を勘定してきました。そうするとね、そのうちに、数ってものはそれぞれ性格があるんだって気持ちになってくるんです。たとえば、十二ってのは十三とは全然違う。十二は潔癖で、生真面目で知的だが、十三は一匹狼で、ちょっとうさん臭いところもあって、欲しい物を手に入れるためなら法を破ることも辞さない。十一はタフで、森を闊歩したり山登りをしたりするのが好きなアウトドアタイプ。十はどっちかというと単純素朴で、言われたとおりのことを大人しくやる奴です。九は奥が深くて神秘的で、御釈迦さまみたいに瞑想的。あんまり並べても退屈なさるでしょうからこれくらいにしときますが、わしの言わんとすることはおわかりでしょう。どれもすごく個人的な感慨ですが、でもね、会計士仲間に訊いてみると、みんなおんなじこと言うんですよ。数には魂があるんだ、数とつき合っていればそのつき合いもいずれかならず個人的なものになるんだってね
pp.109-110
金がいくらあったって関係ない。人生、情熱を注げるものがなけりゃ生きるに値しません
p.117
世界を成り立たせるにはあらゆる種類の人間が必要なんです
p.111
ケツの穴野郎どもが、世界じゅうを動かしてやがるんだ
p.200
とにかく目の前にすべては見えてる。石を一個下ろす、それで何かが起きる。もう一個下ろす、さらに何かが起きる。何の謎もない。壁が建っていくのを自分の目で見られるし、ある程度出来てくればそれを眺めていい気分にもなれる。草を刈ったり薪を割ったりするのとは違う。そういうのだって仕事だが、大したものは残らん。この壁みたいのを作れば、自分の努力の証しがいつまでも残るんだ
p.220
そして突然、人生のひとつの大きな期間がたったいま終わったことを理解した。ただ単に壁と野原が終わっただけではない。そもそもここへ彼を導いたものすべて、過去二年にわたる狂気のサーガ、その何もかもが終わったのだ。テレーズも、遺産も、自動車もみんな。彼はふたたびゼロに戻り、それらのものたちは消えてなくなった。どんな小さなゼロであれ、それは無の大きな穴であり、世界を包含するに十分大きい円なのだ。
pp.229-230
最後までやるって自分に約束したんだよ。わかってくれとは頼まん。でもとにかく俺は逃げない。逃げるのはいままでさんざんやってきた。もうやらない。借金を返す前にここから逃げたら、俺は自分にとって一文の値打ちもなくなっちまう
p.245
『アンナ・マグダレーナ・バッハの音楽帳』、『平均律クラヴィーア曲集』、「神秘な障壁」。この最後の曲を弾くたびに、壁のことを考えずにいられなかった。結局ほかのどの曲にも増して、ナッシュはくり返しこれに戻っていった。演奏するのに二分ちょっとしかかからないこの曲は、ゆっくりとした厳かな進展のなかに、延音や掛留や反復がいくつもあって、片手で一度に二つ以上の鍵盤に触れているべき箇所はひとつもない。音楽がはじまっては止まり、またはじまってはまた止まり、にもかかわらず曲は確実に動いていって、決して訪れぬ解決に向かって進んでいく。
pp.265-266
その後の冬眠状態がなく、四十八時間にわたって自分自身から失踪していることもなかったら、いまここにいる自分にはならずに終わってしまったかもしれない。眠りはひとつの生からもうひとつの生へ移行するための経路だったのだ。自分のなかでうごめく悪鬼たちにふたたび火がついて、元々そいつらが生まれてきた源たる炎のなかに融けていくためのささやかな死だったのだ。悪鬼どもがいなくなったわけではない。だが彼らはもはや形を持たず、形なく偏在することによってナッシュの体の隅々に行きわたっていた。目には見えずともたしかにそこにいるものとして、血や染色体と同じようにナッシュの一部になっていた。それは彼を生かしているさまざまな体液の波間に漂うひとつの炎だった。べつに自分が前よりよい人間になったとか悪い人間になったとかは思わなかった。でももう、怖くはなかった。そこが決定的な違いだった。彼は燃えさかる家のなかに飛び込んで、炎のなかから自分自身を救い出したのだ。それをなしとげたいま、もう一度そうすることを考えても、もはや怖くはなかった。
p.278
事実を知る前に、まず忍耐を知らねばならない。
p.294

偶然の音楽を読みながら浮かんだ作品


レビューまとめ

ども。読書エフスキー3世の中の人、野口明人です。
正直、戸惑いを隠しきれません!これまでのポール・オースターとは根本から何かが違う作品の気がします。今までとの類似点はたくさん発見出来るんですが、なぜか読み終えた後の感じがぜんぜん違う!
むっちゃ面白かったのに、めちゃくちゃ読んでいる時は面白かったのに、人のレビューを読むと不安にかられる。あまりにも僕が読んだ印象と全然違う。
僕が望んだ偶然はそういう事じゃなかったのかもしれない。もしかしたら『ムーン・パレス』のような偶然を望んでしまっていたのかもしれない。
偶然の力による救い。それを求めて読んでいたら、圧倒的な暴力と閉塞感で叩きつけられた。
立ちはだかる壁。なんだか壁が怖くなる。
あぁ。大好きだったジャック・ポッツィ。なぜにそんな事になってしまったんや。
あぁ。頑張ってやり抜いたナッシュ。なぜにそんなラストを迎えたんや。
この小説の魅力は、登場人物すべてに愛着が湧いてしまうという所。そしてそのほとんどが握りつぶされてしまう所。
突然訪れるラストは、人によればハッピーエンドと言えるかもしれないけれど、僕はどうしてもこの続きを読みたくなってしまう。このまま終わったらバッドエンドではなかろうか?
ポッツィはどうなったのか、主人公はどうなったのか、フラワーとストーンはなぜ顔を見せなかったのか。
気になる。気になる。気になる。くそー。何が言いたかったんだー!
ぶっちゃけ、ストーリーの転がし方は面白かったけど、ラストを認めたくないのです。もっと続きが読みたいのです。
前回読んだ『最後の物たちの国で』は同じように閉塞感はありましたが、終わり方がとても開放的でした。今回も同じように“その後がどうなったのか”は書かれずに終わったんですが、前回の終わり方とは何かが違う。
ポール・オースターはこんな書き方もするのか!と発見したと言えなくもないのですが、ポール・オースターはこんな書き方はしないだろー!と思ってしまった書き方でもあるのです。
つまり。
自分の中で7冊読んで積み上げて来たポール・オースター像が今回の8冊目で見事に崩れていきました。
壁。
頭の中にあるのはただひたすらそびえ立つ壁だけ。
あまりにもチンプンカンプンな事を言っていると思うので、人のレビューの声を借りておしまいにしますが、どうやら安部公房の『砂の女』を好きな人には合いそうな本らしいですよ。僕も言われてみればそうかなって思います。
理不尽な閉塞感。うん。
僕はまだこの本が何を言いたいのかわからないんだ。それが魅力なんだ。頭の中には壁しか残らないんだ。
ではでは、そんな感じで、『偶然の音楽』でした。
あ、もしこの本を読もうと思っていたら、Wikipediaの方は目を通さない方が楽しめますよ。あらすじが至極丁寧で簡潔にまとめられているので、読む楽しみが減ります。なのでご注意を。リンクは貼りません。読み終えた後に検索してください。
ここまでページを閉じずに読んで頂いて本当にありがとうございます!
最後にこの本の点数は…
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偶然の音楽 - 感想・書評
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偶然の音楽¥ 649
- 読みやすさ - 90%90%
- 為になる - 65%65%
- 何度も読みたい - 91%91%
- 面白さ - 89%89%
- 心揺さぶる - 66%66%
読書感想文
文章からアバンギャルドな部分が消え、いい意味で多くの作家が書くような読みやすい形になったと思います。ただやはりポール・オースターの良さは、みんなが書きそうな外枠なのにストーリーの転がし方が上手なので読んでいてすごく面白いのです。…でもなぁ、やっぱり僕は壁しか頭に残らなかった。面白いのに壁だけが頭を離れていかないよ。誰かタスケテー。ここまで評価に困ったのは久しぶり。