- 著者:エラリー・クイーン
- 翻訳者:中村有希
- 出版社:東京創元社
- 作品刊行日:1932年
- 出版年月日:2014年07月30日
- ページ数:561
- ISBN-10:4488104398
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ギリシャ棺の謎という推理小説はアメリカの作家、エラリー・クイーンの作品なんですが、実は長いこと本棚にしまったままでした。と言うのも、僕が持っていたのは1959年に発行された井上勇が訳した文庫で、訳うんぬんよりも、印刷してある文字が潰れたスタンプのようで非常に読みにくかったのです。
538ページほどの作品ですが、何度も挑戦しては「フォントが読みにくい!」と挫折し、自分の甘ちゃんぶりを自己嫌悪しておりました。電子書籍などなど、恵まれた環境に甘やかされてしまっている今となっては、どうしても読書に集中する事が出来なかったのです。
しかし、最近、新訳版が出ている事を知りまして、本屋でパラパラとめくって見た所、これがなんとも非常に読みやすい。これは買いだなとレジへ向かい、二宮金次郎のごとく読みながら家へと帰りました。
これはどうやら挑戦謎解き小説というジャンルらしい。作者から読者へ「犯人やトリックがわかるかい?」と挑戦状を叩きつけられているのです。
売られた喧嘩は買わねばならぬ。そう思いながら、どんどん読み進めていったのですが、今度はなんとも主人公が気に入らない。
調べてみるとエラリー・クイーンは非常に読みにくい作家として有名らしく、1959年の解説者、中島河太郎も「クイーンはあいかわらずの引用癖でみんなをいらいらさせる」と書いてあるぐらいなのです。
しかし、これは勝負の世界。作者が読者に「犯人を当ててみろ」と言ってくるのですから、主人公にイライラさせるのも、きっと向こうの戦略。これは意地でも当ててみせるぞ!と意気込んだのですが、ラストの展開に唖然、見事惨敗となりましたとさ。
「これ、犯人わかる人いるの!?」
…という事で、前置きが長くなりましたが、今回はエラリー・クイーンのギリシャ棺の謎をレビューしていきたいと思います。
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小説『ギリシャ棺の謎』 – エラリー・クイーン・あらすじ
読書エフスキー3世 -ギリシャ棺の謎篇-

あらすじ
書生は困っていた。「ネクストコナンズヒントを来週まで覚えていられない人間です!」と仕事中に寝言を言ったせいで、独り、無料読書案内所の管理を任されてしまったのだ。すべての本を読むには彼の人生はあまりに短すぎた。『ギリシャ棺の謎』のおすすめや解説をお願いされ、あたふたする書生。そんな彼の元に22世紀からやってきたという文豪型レビューロボ・読書エフスキー3世が現れたのだが…
ギリシャ棺の謎 -内容紹介-



そもそもの幕開けからハルキス事件は不吉な音色を響かせていたのである。事件は、このあとに起きる出来事と奇妙なハーモニーをなす、ひとりの老人の死で始まった。老人の死はまるで対位法のメロディのように、あとに続く死の行進曲の複雑にからみあう音の糸を編みながら、旋律を奏でていったのだが、無垢の者たちが死を悼んで嘆く歌声はまったくなかった。罪深い交響曲は終わりが近づくにつれて、クレッシェンドで大きくふくらみ、高まり、ついに埋葬の挽歌となって、禍々しい最後の音がかき消えたあとも末永く、ニューヨーク市民の耳という耳の中で余韻を鳴らし続けた。
引用:『ギリシャ棺の謎』エラリー・クイーン著, 中村有希翻訳(東京創元社)







ギリシャ棺の謎 -解説-


三つの棺というジョン・ディクスン・カーの推理小説は、長門有希の100冊に登録されているので、いつかは読んでやろうと大学生の時から探している本なのですが、絶版状態が続き長いこと手に入らなかったのです。しかし、最近になって調べてみると2[…]





























プロットを思いつく能力は天才的ながら文章を書くのが苦手なダネイと、文章は上手いがプロットが作れないリーの2人の弱点を補完するためであった。





エラリー・クイーンはハルキス事件において、最後のどたんばまで敗北の屈辱にあえがされ続けた。
P.16
引用:『ギリシャ棺の謎』エラリー・クイーン著, 中村有希翻訳(東京創元社)





















































- TOMB (墓場)
- HUNT (探索)
- ENIGMA (なぞ)
- GOSSIP (噂話)
- REMAINS (遺骸)
- EXHUMATION (発掘)
- EVIDENCE (証拠)
- KILLED? (殺人?)
- CHRONICLES (物語)
- OMEN (予兆)
- FORESIGHT (先見)
- FACT (事実)
- INQUIRIES (調査)
- NOTE (書置)
- MAZE (迷路)
- YEAST (刺激)
- STIGMA (傷痕)
- TESTAMENT (遺言)
- EXPOSÉ (暴露)
- RECKONING (報い)
- YEARBOOK (日記)
- BOTTOM (奈落)
- YARNS (奇談)
- EXHIBIT (提示)
- LEFTOVER (残滓)
- LIGHT (光明)
- EXCHANGE (交換)
- REQUISITION (要求)
- YIELD (収穫)
- QUIZ (出題)
- UPSHOT (終局)
- ELLERYANA (エラリー方式)
- EYE-OPENER (開眼)
- NUCLEUS (核心)
引用:『ギリシャ棺の謎』エラリー・クイーン著, 中村有希翻訳(東京創元社)




















批評を終えて











いつもより少しだけ自信を持って『ギリシャ棺の謎』の読書案内をしている書生。彼のポケットには「読書エフスキーより」と書かれたカセットテープが入っていたのでした。果たして文豪型レビューロボ読書エフスキー3世は本当にいたのか。そもそも未来のロボが、なぜカセットテープというレトロなものを…。


名言や気に入った表現の引用


見ようとしない人間ほど、眼の見えない者はいない……
P.71
「ノックスさんも墓を掘り起こす場に立ち会うんですか?」エラリーが訊いた。「ぼくは一度でいいから、億万長者というものに会ってみたかったんです」
「いや、立ち会わないと言っていたよ。明日は朝早く、ニューヨークを発たなければならないそうだ」
「またひとつ、子供のころからの夢が破れましたよ」エラリーは悲しげに言った。P.75
「やれやれ、ペッパーさん」エラリーはくすくす笑った。「たぶんあなたはアメリカ人であることで、バートンが『憂鬱の解剖』の中で披露した中国のことわざが分類した、最後のカテゴリーにはいるんですね。“中国人は言う、我々ヨーロッパ人は眼をひとつ持ち、彼ら中国人はふたつ持ち、そのほかの者は眼を持たないと”」
P.135
みなさんが愉快だろうが、不愉快だろうが――こっちは痛くもかゆくもない!
P.165
ぼくの貧弱な脳味噌には、まるで皆さんが材料を買いそろえる前にシチューを作ろうとしているように思えるんですが。
P.173
チョーサーを信じるなら、歳をとるということは、人にとってすばらしい利益ですよ、お父さん。『鳥の議会』を覚えていますか? “人は言えり、古き畑こそ、新たなる穀物が、年ふるごとに実ると”
P.173
運命は残酷だった。運命は、まさに運命らしく、特に目的もないくせに、いっそう残酷になろうと決意しているかのように思われた。どうにも矛盾しているが、涙の雨でたっぷりとうるおされたことで、その土壌はかえって、優しく穏やかな感情の種をまくには適さなくなった。
PP.192-193
うぬぼれ屋が、水車を回す小川のごとき時の流れから、誇りという黄金の富をうまうまとさらいあげるのは、こんな一瞬なのだ。
P.212
今後、ぼくは自分のこのふたつの眼とお粗末な脳しか信じないことにしたんですよ。“内在する意志”がおのずから、目的もなく、無意識のうちに、不滅なる叡智をもって、ぼくに与えてくれるもの以外には
P.288-289
ぼくには前途に横たわるものがはっきり見えませんが、それでも全なる神が、いみじくもラ・フォンテーヌが言った“二重の喜び”をぼくに見せてくださることを祈っていますよ……だます者をだます喜びを
PP.322-323
エラリー・クイーンはいっそうむなしさを覚えていた。信奉する数えきれないほどの古代の叡智のみなもとのひとり、ミュティレネのピッタコス(古代ギリシャ七賢人のひとり)さえも、人の力のちっぽけさに対処するための指針を残してくれていないといまさらながら知ったのだ。時というものは、前髪をつかんで引き留めることができないことを、エラリーはあらためて思い知った。
P.349
まったく、精神医学が人間のありとあらゆる気まぐれな動機を考慮に入れることを覚えるその日までは、犯罪捜査はいつまでたっても子供の遊びだな……
P.382
父親というのは、本当にありがたいものですね。この世でほかにありがたいものはもうひとつしかない。母親というものだ……
P.503
きみは運が悪かったね、ミスター。とても運が悪かった。ナポレオンと同じだよ、すべての戦いに勝ち続けたのに、きみは最後の戦いで負けた
P.513

ギリシャ棺の謎を読みながら浮かんだ作品


レビューまとめ

ども。読書エフスキー3世の中の人、朝起きてすぐに腕立て伏せをする事がルーティンワークの野口明人です。
いやー、この作品にはとにかくビックリした。おそらく生涯で一番度肝を抜かれた結末だったんじゃないかな。
…って、そんな事を言うと、自分のミステリー歴が浅いのがバレてしまうわけですが。
よくミステリードラマなどを見ていると、途中で怪しいシーンが描かれて、おや?こいつが犯人かな?みたいな想像をするんですけど、今回に関しては一度も犯人だと疑いをかける事が出来ませんでした。
確かに犯人を知った後に、もう一度読み返してみると犯人たるヒント的なものが読み取れるんですけど、初読の時はとにかく他の事にばかり引っ張られてしまって全然気が付かなかったですね。
もう脱帽。
まず、ギリシャ棺の謎には登場人物がくっそ多いんですよ。
僕はこのブログの記事を書くために、本を読みながら出てきた登場人物の名前とか特徴を全部メモ取っているんですけど、ものすごい分厚さになりました。
警察の部下とかにも一人一人ちゃんと名前がついていて、紹介されるものだから、誰がモブで誰が主要人物かわからないんですよ。
これがもしテレビドラマとかなら、使われている俳優さんなどの知名度とかで犯人の目星もつくんでしょうけど、本という媒体はそういう推測が出来ないですから、作品から読み取れる文字情報だけの純粋な知恵比べでしたね。
それに今回の作品は主人公がいちいち邪魔してくるっていうね。
もっともらしい推理をしてきて、それがことごとく新事実でぶっ壊されていくのだからたまらない。
こういう主人公の使い方もあるんだなぁ〜と新しい発見でした。普通は主人公に読者は自分を重ねたりすると思うんですけど、完全に敵でしたからね。主人公なのに、敵。
ずっとのちにサンプスン地方検事は白状したのだが、もしもジェイムズ・J・ノックスがこの舞台に居合わせていなければ、警視の机に並んでいる電話機を一台つかみあげて、エラリーの頭に投げつけていたところだったそうだ。サンプスンは信じなかった。信じることができなかった。死者が――それもただの死者ではない、生前は盲目だった死者が――殺人犯だと! この世のあらゆる信憑性の法則に反している。いやいや、そんななまやさしい話どころではない――道化師のひとりよがりな駄ぼら、あるいはのぼせた脳髄が生み出したつぎはぎの化け物のごとき誇大妄想、あるいは……ああ、読者諸君。サンプスンはてっきりそう思ったのである。
P.213
まさにこのサンプスン地方検事のごとく、電話機を叩きつけたくなりましたよ。あ、もちろんこれはエラリー・クイーンが間違った推理をした時の出来事なので、ネタバレではありません。
なのに、著者は「てっきり」とか書くでしょ?この推理が実はそれほど間違ってはいない感じで書いてくるんですよ。
こうなってくると探偵エラリー・クイーンも、著者エラリー・クイーンも敵。挑戦状を叩きつけてくる敵です。誰が真実を言っているのかわからない。
そのため、全然犯人がわかりませんでした。561ページの作品ですけど、513ページ頃まで別の犯人を想像しながら読んでいましたからね。
ミスリードが上手なんですよね。最近で言うと日本のTVドラマ『あなたの番です』を観ていた感覚に近いでしょうか。どうでもいいキャラなのに非常に怪しく演出する感じ。
ただ。あな番の方は犯人がわかった時に、あーぁ。なーんだ、やっぱりかーって思いましたが、ギリシャ棺の謎では、犯人がわかった時に「えー!!なんで!?マジで!?おもしれーー!!!(*´ω`*)」ってなりました。
ということで、この作品読みながら犯人を当てられた人は、本当に尊敬します。
もし、あなたがまだ読んだことがなければ、ぜひ挑戦してみてくださいませ。
ではでは、そんな感じで、『ギリシャ棺の謎』でした。
ここまでページを閉じずに読んで頂いて本当にありがとうございます!
良かったらコメントにおすすめのミステリーを紹介していただけると嬉しいです。
最後にこの本の点数は…
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ギリシャ棺の謎 - 感想・書評
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ギリシャ棺の謎
- 読みやすさ - 69%69%
- 為になる - 72%72%
- 何度も読みたい - 91%91%
- 面白さ - 94%94%
- 心揺さぶる - 88%88%
読書感想文
400ページで終わりそうな物語を迂回しまくっている印象があるので、あまりテンポは良くありません。人によってはそれを毛嫌いする人もいるかもしれませんね。ただし、それを二転三転する物語として捉えられるのなら、先の想像出来ないスリリングなミステリー小説と言えるでしょう。物語をなぞる読み方よりも、物語を想像しながら読むことでより楽しめる小説です。ぜひエラリー・クイーンの挑戦状に挑んでみてくださいませ。