- 著者:ポール・オースター
- 翻訳者:山本楡美子,郷原宏
- 出版社:角川書店
- 作品刊行日:1985/12/01
- 出版年月日:1993/11/10
- ページ数:208
- ISBN-10:4042664016
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シティ・オヴ・グラスというポール・オースターの小説をご存知でしょうか?彼の2作品目の小説であり、無名の詩人だったポール・オースターを人気小説家に飛躍させた作品の一つだと言われています。
そのシティ・オヴ・グラスを読み終えた時、僕はこう叫びました。
「やっぱり、おもしれー!!!」
なんのひねりもない感想じゃないか?と思われることでしょう。しかし、この叫びは称賛の声というよりも、安心した、良かった!という安堵の気持ちが「やっぱり」に強く含まれているのです。
と言うのも、気に入った作家は、発表順に作品を読んでいくというのが僕の楽しみのひとつなのですが、前回読んだポール・オースターの処女作『孤独の発明』があまりにも奇抜な作品過ぎて、もしこんな感じの作品が次も続くようならポール・オースターはもう無理かも…と思っていたからです。
『孤独の発明』を読むのに2週間。『シティ・オヴ・グラス』を読むのに2日間。明らかにポール・オースターの書き方は変わりました。読みやすいのです!ページめくりが止まらないのです!!
だがしかし。
もしあなたに『シティ・オヴ・グラス』はオススメ出来るか?と聞かれたなら、僕はまた考え込んでしまうかもしれません。なぜならこの作品はミステリー小説のようでありながら、ミステリー小説ではない作品だからなのですが…。
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小説『シティ・オヴ・グラス』 – ポール・オースター・あらすじ
読書エフスキー3世 -シティ・オヴ・グラス篇-

あらすじ
書生は困っていた。「青木まりこ現象って言うんですよ」と仕事中に寝言を言ったせいで、独り、無料読書案内所の管理を任されてしまったのだ。すべての本を読むには彼の人生はあまりに短すぎた。『シティ・オヴ・グラス』のおすすめや解説をお願いされ、あたふたする書生。そんな彼の元に22世紀からやってきたという文豪型レビューロボ・読書エフスキー3世が現れたのだが…
シティ・オヴ・グラス -内容紹介-



それは間違い電話で始まった。真夜中に三回かかってきたが、相手が話したかったのは彼ではなかった。ずっと後になって、このことを考えられるようになったら、彼はすべて偶然にすぎなかったと思うだろう。しかし、それはずっと後のことだ。初めは、ただその事件と、事件のなりゆきがあったにすぎない。違った結果になっていたらとか、また、相手の口から出た最初の言葉ですべては始まっていたというようなことは問題ではない。問題は物語自体であって、それが何かを意味しているか否かは、物語の知ったことではない。
引用:『シティ・オヴ・グラス』ポール・オースター著, 山本楡美子, 郷原宏翻訳(角川書店)







シティ・オヴ・グラス -解説-

孤独の発明は、僕が最近どハマリ中の作家、ポール・オースターの処女作という事で手にとりました。気に入った作家は作品発表順に…






当時、角川書店の翻訳物担当の編集者だった田上廣氏が、「いっぷう変わった私立探偵小説があるけど、よかったらやってみないか」と私たちにすすめてくれたのは、おそらく私たちがミステリーの翻訳と並行して詩を書いていることをご存知だったからに違いない。つまり、これはあくまでアメリカの無名詩人が書いた「いっぷう変わった」ミステリーだったのである。
p.203











































これは自伝ではない。僕自身をモデルにして、自己というもののなりたち方について探った作品、と考えてほしい
p.199
引用:「孤独の発明」ポール・オースター著,柴田元幸翻訳(新潮社)

























































批評を終えて











いつもより少しだけ自信を持って『シティ・オヴ・グラス』の読書案内をしている書生。彼のポケットには「読書エフスキーより」と書かれたカセットテープが入っていたのでした。果たして文豪型レビューロボ読書エフスキー3世は本当にいたのか。そもそも未来のロボが、なぜカセットテープというレトロなものを…。


名言や気に入った表現の引用


神って、おかしな言葉ですね。ひっくり返せば犬ですよ。でも犬はおよそ神に似てませんよね? ウーウー。ワンワン。これは犬の言葉です。美しいですね。かわいくて純粋です。ぼくが作る言葉みたいです。
p.31
顔の表情の中で目元の特徴は決して変わらないものだというのをどこかで読んだことがあった。子供のときから老人になるまで、目は変わらない。だから、それを見つけるだけの頭があれば、理論的には少年時代の写真から同じ目を持った老人を探し出すことができる。
p.82
町歩きは、自分の内部と外部の結びつきを理解させてくれた。うまくいった日には、目的のない散歩を気分転換に利用し、外部を内部に取りこんで、内部の主権を奪うことができた。自分を外部のものでいっぱいにする、「つまり自分から自分を引っぱり出すことによって、ある程度、憂鬱な気分をコントロールしようとした。それゆえに散歩は無心そのものだった。
p.92
あんたもご存知のように、言葉は変化しうるものだ。問題はそれをいかに論証するかということだ。そのために、わしは今、一番単純な方法で仕事をしているわけだよ――子供でも、わしの言ってることを理解できるような単純な方法だ。あるものをさす言葉を考えてごらん――たとえば、〈傘〉だ。わしが〈傘〉と言ったら、あんたの心の中にその像が浮かぶ。真ん中に杖のようなものがあって、折りたたみ式の金属のスポークがついていて、その天辺に防水材でできた覆いがある。それを開くと、雨から身を守ってくれる。大事なのは最後の部分だ。傘は単なる物であるだけでなく、ある機能を持つ――言い換えれば、人間の意志を表現するものでもある。そこで改めて考えてみると、すべてのものは、ある機能を提供するという点で傘に似ている。鉛筆は書くためにあり、靴は履くためにあり、車は乗るためにある。問題はまさにここにあるんだ。物がもはや機能を果たさなくなったとき、どうなるか? それは依然として一つの物であるのか、それとも別のものになってしまうのか? 傘から布をはがしてしまっても、傘はやっぱり傘なのか? 布のついていないスポークを開いて、頭上にさし、雨の中を歩き、ずぶぬれになる。それでも、この物体を傘と呼べるのか? 通常、人々はそう呼ぶだろう。ぎりぎりの段階になって、その傘は壊れていると言うだろう。わしにいわせれば、これは大変な間違い、あらゆる問題の元凶なんだ。なぜなら、それはもはや機能を果たせないから、傘が傘であることを止めたからだ。それは傘に似ているかもしれない。かつては傘であったかもしれない。しかし、もうそれはほかのものに変わってしまっている。しかしながら、言葉はそのまま残っている。したがって、言葉はもはやその物を表すことはできない。それは不正確である。間違っている。表わすべき物を隠している。もしわれわれが毎日手にする生活用品にさえ名前をつけることができないとしたら、真にわれわれと関係のある物について話すとき、われわれはいったいどう表現すればいいんだ? われわれが現に使っている言葉の変化をはっきりさせない限り、われわれは路頭に迷い続けるだろう
pp.116-117
調子のいい日もあれは悪い日もある。悪い日がくると、良かった日々を思う。記憶とはすばらしいものだよ、ピーター。死の次にいいものだ。
p.128
嘘は絶対に取り消せない。あとで本当のことを言ってもどうにもならない。
p.131
音楽に浸りきること。その反復演奏の輪の中に引き込まれること。そこはおそらく存在が消滅する場所なのだ。
p.168
ボードレールは言った。「私がいないところでは、私はいつも幸せだろうと思われる」もっと率直に言えば、私がいないところこそ、わたし自身のいるところだということになる。牡牛の角をつかむように思い切って言えば、世界にないどこか、ということだ。
p.170
一回の食事は、次の食事の必然性に対して消極的な防御でしかなかった。食物そのものは決して食物の問題を解決しない。つまり答えを出すべきときを先へ延ばしているにすぎない。従って、最大の危険は、食べすぎることだった。一度に必要以上に食べすぎると、次にはもっと食欲が増進し、こうしてますます食べなければ満足できなくなる。
p.175
彼は頭上に楽しみを見出した。つまり、空はいっときも静止していないということがわかった。雲ひとつなく、青空が広がっている日でも、必ずちょっとした変化や擾乱があった。空が澄んだりどんよりしたり、いきなり白い飛行機や鳥や紙切れが飛んだりした。雲はその絵を複雑にした。
pp.179-180
仕事が忙しすぎて、自分のことを考える余裕がなかった。自分の外観などという問題は存在しないに等しかった。そして今、店の鏡に映った自分を見て、彼は衝撃も失望も感じなかった。まったく何も感じなかった。なぜなら、彼はそこに映っている人間を自分だとは思わなかったからだ。
p.182
初めのうちは、立ち上がって窓の外を見ようかとも思ったが、そのうちにどうでもよくなった。今、夜でなくても、そのうちに夜になる。それははっきりしている。自分が窓の外を覗こうと覗くまいと、結果は同じことだ。反対に、今、このニューヨークが夜であれば、太陽はどこかほかのところを照らしているはずだ。たとえば、中国。そこでは今がまさしく真昼で、農民が田んぼで額の汗をぬぐっているだろう。夜と昼は、いわば相関関係にある。一方だけでは成り立たない。いついかなるときでも、二つで一つだ。われわれがそのことをよくわかっていないのは、同時に二か所にいられないからにすぎない。
p.194

シティ・オヴ・グラスを読みながら浮かんだ作品


レビューまとめ

ども。読書エフスキー3世の中の人、野口明人です。
シティ・オヴ・グラスはニューヨーク三部作の最初の作品なので、残りの『幽霊たち』『鍵のかかった部屋』もものすごく楽しみに思える内容で良かったです。
ぶっちゃけ『孤独の発明』では、ちょっとだけ読書の心が折れそうになったので。シティ・オヴ・グラスの方が先に日本に入ってきたのも理解出来るような気がします。
それにしても、海外の小説を読むときは翻訳者の違いを楽しむということもあると思いますが、絶版になってしまった今回の山本楡美子と郷原宏の共訳である角川版。僕は悪くないんじゃないか?と思いました。
良いとされている柴田元幸訳の『ガラスの街』は簡単に手に入りますが、古本屋さんなどで『シティ・オヴ・グラス』を見つけた場合はぜひ、角川版の方も手にとってみてくださいませ。
ちなみに今作を含めたニューヨーク三部作は、イギリスの大手新聞社であるガーディアン紙が選ぶ「死ぬまでに読むべき」必読小説1000冊のCrime部門に選ばれておりました。
…1000冊かぁ。ほとんど読んでないから、読み終わる前に死んでしまうだろうなぁ。それにしても日本語に翻訳されていない作品って結構多い事にビックリ。
そう考えると、山本楡美子さんと郷原宏さんの本があったからこそポール・オースターが日本に入ってきてくれたのであって、感謝せねば。
あと1000冊の中にラインナップされていた日本人の作品は全部で7冊でした。1000冊の1%にも満たないって所が悔しい所ですが、日本語の作品ってどんな感じで選定されて翻訳されるんだろうね。
- 『他人の顔』安部公房
- 『沈黙』遠藤周作
- 『われらの狂気を生き延びる道を教えよ』大江健三郎
- 『美しさと哀しみと』川端康成
- 『瘋癲老人日記』谷崎潤一郎
- 『ノルウェイの森』村上春樹
- 『ねじまき鳥クロニクル』村上春樹
このラインナップを見るとノーベル文学賞付近の匂いがぷんぷんするけれども。やはり海外にも柴田元幸のように神翻訳家と呼ばれる存在がいるのだろうか。芥川龍之介のファンとしては、彼の作品が入っていないのが残念だなぁ〜。
海外の翻訳家の人、良かったら日本の作品をどんどん世界に広めちゃってください。
ではでは、最後の方は1000冊に対する話ばかりになってしまいましたが、『シティ・オヴ・グラス』でした。
ここまでページを閉じずに読んで頂いて本当にありがとうございます!
最後にこの本の点数は…
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シティ・オヴ・グラス - 感想・書評
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シティ・オヴ・グラス¥ 420
- 読みやすさ - 78%78%
- 為になる - 76%76%
- 何度も読みたい - 81%81%
- 面白さ - 87%87%
- 心揺さぶる - 76%76%
読書感想文
何か起こりそうなのに何も起こらない。しかしそれでも充分に面白い。ミステリーではなく、アイデンティティとは一体なんなのか?を考えさせる哲学書のようなものとして読むと非常に面白い作品だと思います。自分探しの旅に出ている人とかが読むと良いかも。ページ数も少ないし、電車に揺られて読んでみよう。