- 著者:ポール・オースター
- 翻訳者:柴田元幸
- 出版社:白水社
- 作品刊行日:1986/12/01
- 出版年月日:1993/10/01
- ページ数:232
- ISBN-10:4560070989
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鍵のかかった部屋というと日本では嵐の大野くんが主演をつとめた貴志祐介原作のミステリードラマが最初に検索ヒットしますが、今回取り上げるのはそっちではなく1986年に出版されたポール・オースターのミステリーっぽくないミステリー小説の方。
そう。鍵のかかった部屋でポール・オースターのニューヨーク三部作も最後なのです!ここまで彼の作品を出版順に読み続けて来ましたが、じわじわっとポール・オースターとはどんな作家なのか、頭の中にイメージが固まり始めた頃。
「おや?なんか前の2つに比べると雰囲気が随分と違うぞ?これはこれは面白いではないか!」なんて事を言っている内に一気に最後まで読んでしまいました。
これぞ、The・小説。
ニューヨーク三部作で注目されたポール・オースター。その三部作は舞台がニューヨークという事で共通していますが、独立した3つの作品です。どれから読んでも楽しめるようになっています。ですが、あえて言おう!『鍵のかかった部屋』だけは最後に読め!と。
なぜこれだけは最後に読まなければならないのか。その理由を踏まえてこの本のレビューをしていきたいと思います。
鍵のかかった部屋はきっと、本を読みたいと思う人、ミステリーを読みたい人にはオススメしづらく、「小説」を読みたい!という人にオススメ出来る作品なんだと思うのです…。
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小説『鍵のかかった部屋』 – ポール・オースター・あらすじ
読書エフスキー3世 -鍵のかかった部屋篇-

あらすじ
書生は困っていた。「見えているのに、同時に見ていないもの」と仕事中に寝言を言ったせいで、独り、無料読書案内所の管理を任されてしまったのだ。すべての本を読むには彼の人生はあまりに短すぎた。『鍵のかかった部屋』のおすすめや解説をお願いされ、あたふたする書生。そんな彼の元に22世紀からやってきたという文豪型レビューロボ・読書エフスキー3世が現れたのだが…
鍵のかかった部屋 -内容紹介-





いまにして思えばいつもファンショーがそこにいたような気がする。彼は僕にとってすべてがはじまる場であり、彼がいなければ僕は自分が誰なのかもよくわからないだろう。僕たち二人はまだ口もきけない頃に出会った。おむつをつけて庭の芝生をはいまわっていた赤ん坊の頃のことだ。七歳になる頃にはもう、僕たちは針で自分の指を刺し、生涯の義兄弟の契りを結んでいた。いま僕が子供の頃を振り返ると、いつもそこにはファンショーの姿が見える。僕といつも一緒にいて、僕の想いを共有し、僕が自分から離れて目を上げるといつもそこにいた人物、それがファンショーだった。
引用:『鍵のかかった部屋』ポール・オースター著, 柴田元幸翻訳(白水社)







鍵のかかった部屋 -解説-



















幽霊たちはポール・オースターの3作品目ですが、前回から引き続き発表順に読んでみました。ノルウェー・ブック・クラブが200…






















































































しかしその結末だけは僕にとってもはっきりしている。それは忘れていない。これは幸いなことだと思っている。なぜなら、この物語全体が結末において起こったことに収斂しているからだ。その結末がもしも僕の内側に残っていなかったら、僕はこの本を書きはじめることもできなかっただろう。この本の前に出た二冊の本についても同じことが言える。『ガラスの街』、『幽霊たち』、そしてこの本、三つの物語は究極的にはみな同じ物語なのだ。ただそれぞれが、僕が徐々に状況を把握していく過程におけるそれぞれの段階の産物なのだ。僕は自分が何か問題を解決したのだなどと主張するつもりはない。僕はただ、起きた出来事を振り返っても自分がもはや怯えなくなった瞬間が訪れた、ということを伝えようとしているだけなのだ。
p.182
引用:「鍵のかかった部屋」ポール・オースター著,柴田元幸翻訳(白水社)


















批評を終えて











いつもより少しだけ自信を持って『鍵のかかった部屋』の読書案内をしている書生。彼のポケットには「読書エフスキーより」と書かれたカセットテープが入っていたのでした。果たして文豪型レビューロボ読書エフスキー3世は本当にいたのか。そもそも未来のロボが、なぜカセットテープというレトロなものを…。


名言や気に入った表現の引用


人生はわれわれのちからの及ばぬやり方でわれわれを引きまわし、ほとんどすべてのものがいずれはわれわれから離れてゆく。われわれが死ねばさまざまなものも一緒に死ぬ。そして死は毎日のようにわれわれの身に起こるのだ。
p.5
そしていまこうしてこの文章を書きながらも、僕はしみじみ思う。僕はあの最初の日、大地の奥に通じる穴に落ちたのだと。あの日僕は、それまで行ったこともない場所に向かって落下しはじめたのだ。
p.12
すべてがとてもドラマチックだった。と同時にすべてがグロテスクであり、いささか喜劇的でさえあった。
p.22
彼の中には秘密の核があることを人は感じた。決して到達することのできない、隠された神秘の核があることを。彼を真似ることは、ある意味でその神秘に参与することだった。だがそれはまた、彼を本当に知ることなど絶対にできないのだと思い知ることでもあった。
p.26
ファンショーがしたのは、慈善の行為というよりも、むしろ正義の行為だったのだ。だからこそデニスも、自分をおとしめることなくそれを受け入れることができたのである。無造作さと、確信との絶妙な組合せが、あたかも魔法のように、慈善を正義に変容させたのだ。
pp.28-29
何が起ころうとしているか彼女にはわかっていた。だがわかっているのだということを認めるだけの強さはなかった。
p.40
ある人がかつて、物語というものはそれを語りうる者の身にだけ起きる、と言ったことがある。おそらく同じように、体験というものは、それを体験しうる者の身にだけ起きるのかもしれない。
p.46
言葉というものを大切に思うこと。書かれたものに自分を賭けてみること。書物というものの力を信じること。そうしたことが他の要素を圧倒するのであり、それに較べれば、自分の人生などごくささいなものに思えてくるのだ。
p.50
虚構の一部になるのは誰だって嫌だ。ましてやその虚構が現実であればなおさらである。
p.53
慎重さはそれなりに役に立つものだが、度が過ぎてはことを台なしにしかねない。
p.68
暗闇だけが、世界に向かって自分の心を打ち明けたいという気持を人に抱かせる力を持つ。そして、あの頃起こったことを考えるとき、僕をいつも包みこむのは、まさに暗闇なのだ。暗闇について書くには勇気が要る。だがそれについて書くことこそ、暗闇から逃れうる唯一の可能性であることも僕は知っている。
p.74
十一時半になった。郵便の時間だ。僕はいつものようにエレベーターを降りて、自分の郵便箱を見に行った。僕にとってそれは毎日つねに、穏やかな気持で迎えるのは難しい、重大な意味を帯びた瞬間だった。何か良い知らせがボックスの底に横たわっているのではないか、そういう期待がつねに胸の内にあった。思いもよらぬ小切手、仕事の依頼、何らかのかたちで僕の人生を変える手紙……いまではもう、そういう期待の習慣がすっかり僕の一部になりきっていた。だから郵便箱を覗くときはいつも、思わず胸がときめいてしまうのだった。郵便箱は僕の隠れ家だった。世界でただ一つ、純粋に僕のものである場だった。だが同時にそこは僕を世界と結びつけてくれる場だった。郵便箱の魔法の暗闇の中には、物事を起こらせる力が宿っていた。
pp.76-77
考えるという言葉はそもそも、考えているということを自分が意識している場合にのみ用いられる。
p.87
われわれはみな物語を聞きたいと思っている。物語を聞くとき、われわれは幼かった頃の聞き方に戻る。言葉の内側にある真の物語を自分で思い描こうとするのだ。われわれは主人公の立場にわが身を置き、自分自身のことを理解できるのだから主人公のことだって理解できるはずだという思いを抱く。だがそれは欺瞞である。おそらくわれわれは自分自身のために存在しているのだろうし、ときには自分が誰なのか、一瞬垣間見えることさえある。だが結局のところ何ひとつ確信できはしない。人生が進んでゆくにつれて、われわれは自分自身にとってますます不透明になってゆく。自分という存在がいかに一貫性を欠いているか、ますます痛切に思い知るのだ。人と人とを隔てる壁を乗りこえ、他人の中に入っていける人間などいはしない。だがそれは単に、自分自身に到達できる人間などいないからなのだ。
p.96
どんなに低い可能性といえども決してゼロではないし、不運に限度を設けるべきいかなるルールも存在しない。それぞれの瞬間においてわれわれはつねに一からやり直しているのであり、前の瞬間とまったく同じ確率をもって不幸はわれわれを待ち受けているのだ。
p.103
僕は憑かれていた。生まれてはじめて、僕は自分の中に何の優しさも感じなかった。
p.131
物語は言葉の中にはない。苦闘の中にあるのだ。
p.183
愛着があったからだ。でも愛着があったからといって、いい本になるわけじゃない。赤ん坊は自分のウンコに愛着を持つ。でも他人から見ればただのウンコだ。それはまったく赤ん坊自身の問題だ
p.209

鍵のかかった部屋を読みながら浮かんだ作品


レビューまとめ

ども。読書エフスキー3世の中の人、野口明人です。
ついにニューヨーク三部作が終わってしまいました。今回の『鍵のかかった部屋』はその最後にふさわしい内容だったと思います。
物語とは通常、主人公に何かが起き、その出来事について描かれていき、最後に元の場所に戻りつつも、主人公は最初の頃の主人公とは違う何かを手に入れているという描かれ方をするのがほとんどです。
しかし、『シティ・オヴ・グラス』や『幽霊たち』の主人公は、最初の場所に戻るどころか、行方知れずになってしまう結末を迎えていました。
主人公が消えてしまう。そうなると、一体この文章は誰が書いているんだ?っていう、出来の悪い怪談話のような事になりますが、上手いこと『シティ・オヴ・グラス』では途中で書き手が変わり、『幽霊たち』では最初っから第三者が描いているという手法をとりました。
そして今回の堂々たる「僕」という主人公の登場です。主人公と書き手が「僕」である以上、ラストで主人公が消えるという事は出来ません(…いや、『シティ・オヴ・グラス』のように途中で書き手が変わるという方法をとれば出来るかもしれませんが)。
今回の主人公に名前を与えずに「僕」という主観的な書き方をしたのか、それはきっとニューヨーク三部作に決着をつけたかったからだと野口は思います。
ネタバレに近い話になってしまうかもしれませんが、今回のラストでは主人公は失踪することなく、ちゃんと元の場所に戻るのです。
誰かを追いかけ、自分を見失っていくというニューヨーク三部作に共通していた設定を見事克服し、見失いながらも、見事打ち勝ち、自分を取り戻した生活に戻っていく。アイデンティティの確立。失っていかけていたアイデンティティを家族の元で見出すのです。
そういうハッピーエンドを迎える事ができるのです。やっと。やっとです。ふわふわっとした終わり方が、やっと地に足をつけることが出来るのです。長い旅でした。
考えてみれば、今までの主人公は孤独な環境の人が多かったですね。クィンは妻と子を亡くした設定でしたし、ブルーは付き合っていた彼女の浮気現場を見てしまうし。
ぶっちゃけ、この『鍵のかかった部屋』の主人公の行動を冷静に振り返ってみれば、結構なクソ野郎だとは思うんですけどね。親友の奥さんを奪ったぐらいなら許せるんっすけど、親友のお母さんまでも…ってね。でも、いいんです。一人ぼっちでなければ。戻る場所がある事が大切なのです。
一度離婚を体験して、作家であるシリ・ハストヴェットと再婚した事をまじまじと感謝しているポール・オースターだからこそ書けたラストだなぁ〜なんてしみじみ思いました。なんかこの人、本当に奥さんと子供の事大好きなんだろうなぁ〜ってひしひし伝わってくる文章書くんですよね。
それにしても、このニューヨーク三部作では、ムーン・パレスとは一味違うポール・オースターの書き方にどっぷりハマってしまっていて、これからどうなるんだ!?主人公はどうやって精神崩壊していくんだ!?と、楽しくページめくりしていました。
本当にすごいっすよねぇ。ほとんど外枠の設定は一緒なんですけどねぇ。何かを追いかけ、追いかけているつもりが追い詰められ、自分を失っていく。それは一緒なのに、全部面白いんすよね。
ファンタジー色の強かった『シティ・オヴ・グラス』。独特な文体だった『幽霊たち』。そして純文学に近づいていった『鍵のかかった部屋』。
『鍵のかかった部屋』が優れている点は、他の2つに比べて、外の世界に広がっていった事。外に広がれば広がるほど、内側に内側に進んでいく。そのコントラストをくっきりと描けたことにあると思います。
タイトルの『鍵のかかった部屋』というものにはちょっと矛盾しているような感想かもしれませんけどね、外に出ようとすればするほど、内側に閉じ込められている事に気がつくみたいな感じでしょうかね。
書くことで自分を見失っていくファンショーと読むことで自分を見失っていく「僕」。重なり合っていく二人。
娯楽としての小説というよりも、自分と他者というテーマを突き詰めていった結果、芸術的にも見えてくる作品。
…うーむ。自分でも何言っているのかわからなくなってきた。
とにかくなんというか、ミステリー小説としての楽しさよりも、The・小説。うおお!小説読んだなぁー!という感想を抱く作品でした。村上春樹の初期の頃とか安部公房が好きな人はハマると思う。
大衆文学のように、見事!伏線回収すごいな!みたいな楽しさよりも、なんかどんどん深みにハマっていく。そんな本を求めている人に読んで欲しい作品です。
ということで、そろそろ似たような事しか言えなくなって来ましたので、このへんでレビューを終わろうと思います。ポール・オースターを有名にしたニューヨーク三部作、完結。
次は一体どんな作品を読ませてくれるのか。次回作の『最後の物たちの国で』は僕がポール・オースターにハマるきっかけになった『ムーン・パレス』と、今回のニューヨーク三部作の間にある作品なので、ワクワクしております。
ではでは、そんな感じで、『鍵のかかった部屋』でした。
ここまでページを閉じずに読んで頂いて本当にありがとうございます!
最後にこの本の点数は…
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鍵のかかった部屋 - 感想・書評
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鍵のかかった部屋¥ 1320
- 読みやすさ - 90%90%
- 為になる - 81%81%
- 何度も読みたい - 87%87%
- 面白さ - 89%89%
- 心揺さぶる - 89%89%
読書感想文
ニューヨーク三部作はどれから読んでも良いのだけれど、出来れば『鍵のかかった部屋』だけは最後に読んだほうが十二分に楽しめると思います。まとめ的な感じなので。逆にこれを先に読んでいたらここまで評価は高くなかったかもしれない…。