屍人荘の殺人

『屍人荘の殺人』は新・新本格派?なにがそんなに新しいの?

屍人荘の殺人 - 書籍情報
  • 著者:今村昌弘
  • 出版社:東京創元社
  • 作品刊行日:2017年10月13日
  • 出版年月日:2017年10月13日
  • ページ数:328
  • ISBN-10:4488025552

BOOK REVIEWS

屍人荘の殺人という本を僕が知ったのは2017年の年末。中学の同級生との忘年会で「すげー新しいミステリー小説が出てきた!」とハードル上げ上げで紹介されたのが始まりでした。

何がすげーのかを具体的には教えてくれなかったのだけれど、みるみるうちに『屍人荘の殺人』はテレビでも取り上げられるようになり、バラエティ番組でも千原ジュニアさんが「そう来たか!って感じでしたね」と紹介していたりもしていました。

僕はあまりにも積読の本が多すぎて、単行本を購入する気にはならず、文庫が出たら読んでみるか!ぐらいな気持ちだったのだけれど、『屍人荘の殺人』は2018年の年間ミステリーでまさかの3冠受賞までしてしまったのです。

国内にはミステリー小説の年間ベストを行っている会社が4つあるのだけれど、屍人荘の殺人と同じ会社の3冠を受賞した作品は東野圭吾の容疑者Xの献身のみ。

ただ僕はアマノジャクな性格でして、みんなが良い良い!と持ち上げれば持ち上げるほど、読みたくなくなる性格なので、読まなくていいかぁ…と完全に『屍人荘の殺人』の事を失念していた所、ほんの3日前に図書館からメールが届きまして、「ご予約の書籍の貸し出しの準備が整いました」とありました。

そう。僕は2017年の忘年会の日に酔っ払いながら、図書館で貸し出し予約をしていたようなのです。2年半前に予約していたものが、今やっと自分の順番に回って来たのか!と感動を覚え、コロナウイルスの影響後の再開もあって、図書館での限定受け渡しが出来るようになりましたので『屍人荘の殺人』を借りてきました。

そして僕はみんなが「新しい!新しい!」とハードル上げ上げの『屍人荘の殺人』を読み始めたのですが…

スポンサードリンク

小説『屍人荘の殺人』 – 今村昌弘・あらすじ

屍人荘の殺人
3.4

著者:今村昌弘
出版:東京創元社
ページ数:336

ミステリ愛好会の葉村と明智は興味本位で昨年の合宿後に自殺者が出たといういわく付きの映像研究部の夏合宿に参加を試みたのだが、何度も断られていた。そんな彼らの前に「取引をしましょう」と現れた同じ大学の探偵少女、剣崎比留子。その取引とは合宿に一緒に参加する代わりにその理由を聞かないというものだった。そうして参加した夏合宿はなんて事ない郊外のペンション紫湛荘しじんそうで行われたのだが、予想だにしなかった事態に見舞われ、一同は籠城を余儀なくされるのだった。そして、部員の一人が惨殺死体として発見され…。

読書エフスキー3世 -屍人荘の殺人篇-

文豪型レビューロボ読書エフスキー3世-屍人荘の殺人
前回までの読書エフスキーは

あらすじ
書生は困っていた。「危険が危ない!と言ったドラえもんの漫画はここまで世間に受け入れられて…」と仕事中に寝言を言ったせいで、独り、無料読書案内所の管理を任されてしまったのだ。すべての本を読むには彼の人生はあまりに短すぎた。『屍人荘の殺人』のおすすめや解説をお願いされ、あたふたする書生。そんな彼の元に22世紀からやってきたという文豪型レビューロボ・読書エフスキー3世が現れたのだが…

屍人荘の殺人 -内容紹介-

無料読書案内の書生
無料読書案内の書生
大変です!先生!今村昌弘の『屍人荘の殺人』の事を聞かれてしまいました!『屍人荘の殺人』とは一言で表すとどのような本なのでしょうか?
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
“奇想と本格ミステリの融合(北村薫評)”デスナ。
無料読書案内の書生
無料読書案内の書生
…と、言いますと?正直な所『屍人荘の殺人』は面白い本なのでしょうか?

剣崎比留子殿

前略
 そちらは変わらず健勝のことと思う。挨拶は苦手なので早速だが本題に入らせてもらう。
 先日依頼を頂いた斑目機関なる組織の調査に関して報告書を送る。
 但しこれは、まとめた私の目から見ても著しく常識を逸脱した奇々怪々なる内容であり、調査を進めるうちに期せずして公安調査庁の極秘事項にまで踏み込むことになってしまった。
 よってこの依頼は我が事務所ではなく私個人の仕事として処理しており、他の職員たちには依頼のこと自体一切知らせていない。貴殿もこの報告の複製はもちろん他言も無用と銘記されたし。
 読後この資料は処分されることを奨める。

引用:『屍人荘の殺人』今村昌弘著(東京創元社)

読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
コンナ一文カラ始マル“今村昌弘”ノ2017年の作品デス。読メバワカリマス。
無料読書案内の書生
無料読書案内の書生
剣崎比留子…。なかなか堅物そうな名前ですね。内容はどういう感じなんですか?奇々怪々なる内容とか書かれていますが…?
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
ミステリーッテ、ネタバレ厳禁ナノデ…
無料読書案内の書生
無料読書案内の書生
ネタバレ厳禁なのは百も承知!先生、失礼!(ポチッと)
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
ゴゴゴゴゴ…悪霊モードニ切リ替ワリマス!
無料読書案内の書生
無料読書案内の書生
うぉおおお!先生の読書記録が頭に入ってくるぅぅー!!
屍人荘の殺人_批評

屍人荘の殺人 -解説-

読書エフスキー3世
読書エフスキー
今回は、世間で「新・新本格派」と評される『屍人荘の殺人』です。
無料読書案内の書生
書生
「新・新」本格派って、またけったいな表現ですね。「危険が危ない」みたいな。
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
いや、なに、この小説の中でも語られているんですけどね、ミステリー愛好家の中ではですね、ずいぶん昔から密室トリックの鉱脈は掘り尽くされたと言われているらしいんですよ。
無料読書案内の書生
書生
えー。掘り尽くされたのなら新しいものは出てこないはずじゃないですか。
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
まぁ、だからですね、エドガー・アラン・ポーで確立され、ホームズとかで本格ミステリー黄金時代が訪れた後は、日本でも社会派ミステリーが台頭してきたわけですね。
無料読書案内の書生
書生
あー、社会派ミステリーって「犯人はこの社会の闇に飲み込まれた被害者と言えるかも知れませんね」的なセリフで有名なやつですね。
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
日本で言えば横溝正史の金田一耕助シリーズが本格派、松本清張が社会派って感じですかね。
無料読書案内の書生
書生
へー。
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
んで、しばらくして推理小説の形骸化が進んで、これって推理小説っていうより、社会批判小説じゃね?っていう作品が乱発し始めた頃に、ババーン!と綾辻行人が現れるわけですよ。
十角館の殺人
3.9

著者:綾辻行人
出版:講談社
ページ数:357

無料読書案内の書生
書生
十角館の殺人』で新・本格派と謳われた作家ですね。読みましたよ。アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』を下地に書いた作品で、むっちゃ面白かったです!大学生の時に書いたんですよ、これ。すごいっすよね。
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
まぁ、その後は宮部みゆきとか東野圭吾とか社会派が再び隆盛を極めてたわけですが、ここに来て「新・新本格派」と呼ばれる屍人荘の殺人が登場したわけです。
無料読書案内の書生
書生
うーむ。でも最初に言ってましたけど、ぶっちゃけトリック的なものって掘り尽くされてしまったんでしょ?だから時代とともに素材も新しくなり続ける社会派の推理小説の方が売れているわけで、一体何がそんなに『新しい!』と豪語されているんです?
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
えーっと、そこに触れるのは少しためらいがあります。
無料読書案内の書生
書生
えー!!でも、そこが一番気になってる所なんですよ。みんながみんな、新しい新しいって言うから。
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
正直な所、ミステリーって、知らないからこそ楽しめる所ってあるじゃないですか。ブラックボックスって中に何が入っているかわからないからドキドキするんですよ。それを予め知ってしまうと楽しみがひとつ減ってしまうじゃないですか。
無料読書案内の書生
書生
そこを何とか、ほら概要だけでも知りたいというか…。
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
ではですね、本格派とか社会派って分かれてますけど、それってどういう分類で分かれてます?
無料読書案内の書生
書生
え?社会派はさっき言った通りですけど、本格派はあれですかね、ホームズみたいな名探偵がいて、ワトソンみたいな助手がいて、クローズドサークルみたいなのがあってみたいな。
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
まぁ、いわゆるある一定のルールみたいなのが本格派にはあるわけじゃないですか。
無料読書案内の書生
書生
ええ。そうですね。
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
そのルールをぶっ壊したって感じですかね。
無料読書案内の書生
書生
えー…。本格派のルールをぶっ壊したって事は、社会派になるのでは?
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
推理小説のジャンルは本格派と社会派だけではないですよ。まぁ、ルールをぶっ壊したという言葉ではわかりにくいかもしれませんが、著者の今村昌弘さんは受賞の言葉でこんな事を述べています。

――実は本格ミステリに傾倒していたわけではなく、良き本格ファンなどとは口が裂けても名乗れない身なのです。そんな私が「読んだことのないミステリを!」という一念で書き上げた作品がこのような栄誉を賜ったのですから、本格ミステリとは私が思い描いていたよりもはるかに自由で懐の深いものなのだと実感しました。

引用:『屍人荘の殺人』今村昌弘著(東京創元社)

無料読書案内の書生
書生
読んだことのないミステリを」ですか。ほほう。
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
それと作品内の次の引用を読んでみてください。

「――実はずいぶん昔から、ミステリでは密室トリックの鉱脈は彫り尽くされたといわれているんです」
「それは大変じゃない。本が売れなくなっちゃう」
「ええ。ですが実際にはまだミステリは書かれ続けているし、密室を売りにした作品も存在し続けている。最近の作品の特徴の一つが、複数のパターンを組み合わせることで問題を複雑化することなんですよね」
 トリックが仮に五つしかなくとも、そのうち二つを組み合わせれば十通りのネタができる。個別のトリック自体は簡単でも、複数の要素が絡み合えば非常に難解な謎に見せかけることは可能だ。

p.175

無料読書案内の書生
書生
ははーん。なるほど。組み合わせの妙ってやつですね。
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
そうです。その組み合わせがこの小説では絶賛されているわけなんですよ。私も読みながら、なるほどねぇ〜。みんなが言っていたのはこういう事かと思いましたもん。
無料読書案内の書生
書生
では、『屍人荘の殺人』は本格派ミステリーの傑作という事でよろしいですか?
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
うーん…。傑作かと聞かれるとどうなんでしょうね。
無料読書案内の書生
書生
あれ?でも面白いんですよね?
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
確かに面白いは面白いんですけど、なんというか良い意味でも悪い意味でもラノベ臭が強いんですよね。
無料読書案内の書生
書生
ラノベ臭?
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
ええ。この小説、本格派と言われている割に文学感少なめで文体が軽いんです。それはまぁ、読みやすいって事なんですけど。でもタイトルが屍人荘の殺人って付いてるじゃないですか。そこからイメージするものって、私の場合、典型的なクローズドサークルだったんですよね。
無料読書案内の書生
書生
屍人荘って名前がおどろおどろしいですよね。そこに閉じ込められるとなるとちょっとホラーチックです。
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
でしょ?でもね、十角館の殺人みたいな“閉塞感”は襲ってこないんですよ。
無料読書案内の書生
書生
ふむ。
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
それと、クローズドサークルって、誰が殺されるのかわからないっていうのもある程度の閉塞感を生み出すと思うんです。
無料読書案内の書生
書生
犯人が誰だろうって推理する楽しみと、ええ!?こいつここで殺されちゃうの!?みたいなドキドキハラハラはクローズドサークルミステリーの醍醐味ですね。
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
でも、この作品に関しては、ほぼ最初の段階で誰が殺されるのかはわかります。そして意外性もなくそのレールを走っていくので、一体これから何が起きるのか!?という緊迫感が足りないんです。
無料読書案内の書生
書生
なるほど。
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
さらにはキャラクター設定がアニメっぽいです。だからまぁ、ラノベかよ!って読みながらツッコみましたね。
無料読書案内の書生
書生
ほほう。文体が軽いってそういうのも含めてって事ですね。
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
どちらかって言うと『屍人荘の殺人』はドラマよりも漫画とかアニメにしやすそうな作品ですね。
無料読書案内の書生
書生
あー、実際に少年ジャンプ+で漫画化されてますもんね。あれ?でも映画化もされているんじゃなかったでしたっけ?
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
ええ。漫画化も実写化もされています。私はどちらも観てみましたが、やっぱり映画の方は違和感がありました。独特な監督の撮り方もあるっちゃあるんですけど、まず人間が演じるにはちょっとキャラクターがデフォルメされすぎてるなって。
無料読書案内の書生
書生
でも、それっていわゆる本格派のイメージをぶっ壊すって事につながるのでは?
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
どうなんでしょうね。読者としては、そこまでやられちゃうと、思ってたのと違うというか、読みたかったジャンルじゃない!ってなっちゃう気はしますね。
無料読書案内の書生
書生
まぁ、たしかにラノベミステリーと本格ミステリーって読者層が違いますもんね。
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
登場人物が「はわっ」とか「ちゅーしてあげる」みたいな事を言うのって、アニメ好きなら受け止められると思いますが、文学好きなら違和感を感じるみたいな。
無料読書案内の書生
書生
僕は受け止められる側の人間です!
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
ただね、間違って欲しくないのはこの『屍人荘の殺人』が本格派ミステリーの傑作かどうかは別として、読み物として面白かったという事ですね。
無料読書案内の書生
書生
結局ジャンル分けなんてものは便宜上のものであって、読んで楽しかったら僕は何でも良いと思います!
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
確かにそのとおりかも知れませんね。
無料読書案内の書生
書生
ですです。楽しんだもん勝ちですよ!
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
あ、それで言えば、たまーに「こんな設定はあり得なさすぎて読むのやめた」的なレビューもあるんですけど、ぜひともそう考えてしまう前に、本格ミステリー作家の大御所ジョン・ディクスン・カーの『三つの棺』という作品を読んでもらいたいですね。
三つの棺
3.7

著者:ジョン・ディクスン・カー
翻訳:加賀山卓朗
出版:早川書房
ページ数:415

無料読書案内の書生
書生
大御所…。すいません。聞いたことないです。ジョン・ディクスン・カー
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
『三つの棺』はそれ自体がかなり傑作な本格ミステリー小説なのですが、その中でも有名なのが17章の『密室講義』なのです。
無料読書案内の書生
書生
密室講義?
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
ええ。今回の『屍人荘の殺人』の葉村君も作品の中で密室について語っているシーンがあるのですが、それを章まるまる使って事細かに語ってくれているんですよ。
無料読書案内の書生
書生
へー。
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
ちなみにこの密室講義は、アンソロジーとして読んでも楽しめる作品でして、前後の部分を読まなくても理解出来ちゃう内容なのです。
無料読書案内の書生
書生
ほほう。そこだけでも読んでみたくなってきた。
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
では少しだけ引用させてもらいましょう。

 いずれにせよ、探偵小説において、”ありそうもない”がとうてい批判にならないことは指摘してよかろう。われわれは、ありそうもないことが好きだからこそ、探偵小説に愛着を抱くと言ってもいいのだからね。Aが殺され、BとCに強い嫌疑がかかっているときに、潔白に見えるDが犯人ということは、ありそうもない。ところが、Dが犯人なのだ。Gに鉄壁のアリバイがあり、あらゆる点で、残るすべてのアルファベットから潔白だと太鼓判を押されているときに、Gが犯罪を起こしたというのは、ありそうもない。だが、Gが起こしたのだ。探偵が海岸でわずかな炭塵を見つけたとしても、そんなつまらないものが重要な意味を持つことは、ありそうもない。だが、持つのだよ。要するに、”ありそうもない”という単語が、もう野次として意味を持たない域に達するのだ。小説の最後まで”ありそうかどうか”は忘れられる。殺人を予想外の人物に結びつけたければ(われわれ時代遅れの老人のいくらかは、そうしたがるが)、その人物、最初に疑われる人物より、ありそうもない、必然的にわかりにくい動機で行動しても、文句は言えない。
 心のなかで、”こんなことはありえない!”と叫んだり、顔を半分見せた悪霊や、頭巾をかぶった幽霊や、人を惑わす金髪のセイレーンに不満をもらしたりしているときには、たんに”こういう話は好きではない”と言っているにすぎないのだ。むろんそれでかまわない。好きでないなら、そう言う権利はいくらでもある。しかし、こういう趣味の問題を強引にルールに変えて、小説の価値や蓋然性を判断するのに使いはじめると、結局たんに”この一連の事件は起きるわけがない。起きたとしても私が愉しめないから”と言っていることになる。

引用:『三つの棺』ジョン・ディクスン・カー著, 加賀山卓朗翻訳(早川書房)PP.290-291

読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
まぁ、読むの辞めたという人はそれはそれで良いと思います。人には好き嫌いがありますからね。ただ、だからと言って『屍人荘の殺人』が駄作というには…という事ですね。
無料読書案内の書生
書生
あーなるほど。さっきの登場人物のセリフがありえないとか言うのもそういう感じなんですかね。まぁ、僕としてはさっきも言いましたが読書は楽しんだもん勝ちだと思っているので、今村昌弘さんの受賞の言葉を借りれば、「懐の深い」人間でありたいと思っております。
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
ということで、新・新本格派と謳われる『屍人荘の殺人』を扱って来ましたが、ありえない設定を新本格派に放り込んできた新しいジャンルの作品として楽しみましょう。色々と受賞したのも納得の出来です。
無料読書案内の書生
書生
危険が危ない!と言ったドラえもんの漫画はここまで世間に受け入れられていますもんね!

批評を終えて

読書エフスキー
読書エフスキー
以上!白痴モードニ移行シマス!コード「ケムール・はわっ・ポルズンコフ!」
無料読書案内の書生
無料読書案内の書生
「危険が危ない!と言ったドラえもんの漫画はここまで世間に受け入れられて」…って、あれ?僕は一体何を…。
職場の同僚
職場の同僚
何をじゃないよ!仕事中に居眠りこいて!なにが「危険が危ない」だよ。こっちはお前が寝ていたせいで、頭痛が痛いよ。
無料読書案内の書生
無料読書案内の書生
え?あれれ?読書エフスキー先生は?
上司
上司
誰だそれ。おいおい。寝ぼけ過ぎだぞ。罰として一人でここの案内やってもらうからな!
無料読書案内の書生
無料読書案内の書生
えーっ!?一人で!?で、出来ないですよ〜!!
上司
上司
寝てしまったお前の罪を呪いなさい。それじゃよろしく!おつかれ〜
無料読書案内の書生
無料読書案内の書生
ちょっ、ちょっと待って〜!!…あぁ。行ってしまった。どうしよう。どうかお客さんが来ませんように…。
お客さん
お客さん
…あのすいません、屍人荘の殺人について聞きたいんですが。
無料読書案内の書生
無料読書案内の書生
(さ、早速お客さんだーっ!!ん?でも待てよ…)いらっしゃいませー!今村昌弘の2017年の作品でございますね。おまかせくださいませ!
ブックレビューテープ
 あとがき


いつもより少しだけ自信を持って『屍人荘の殺人』の読書案内をしている書生。彼のポケットには「読書エフスキーより」と書かれたカセットテープが入っていたのでした。果たして文豪型レビューロボ読書エフスキー3世は本当にいたのか。そもそも未来のロボが、なぜカセットテープというレトロなものを…。
読書エフスキー
読書エフスキー
ウィンク。パチンパチン。
屍人荘の殺人レビューお終い

名言や気に入った表現の引用

屍人荘の殺人の名言
無料読書案内の書生
書生
「一杯の茶を飲めれば、世界なんか破滅したって、それでいいのさ。by フョードル・ドストエフスキー」という事で、僕の心を震えさせた『屍人荘の殺人』の言葉たちです。「××」はネタバレになるので伏せ字に置き換えさせてもらいました。まだ読んでいない場合はご注意ください。

カレーうどんは、本格推理ではありません

p.10

俺は密かに女性陣があまりにも美人に偏りすぎているのが気になった。むしろ今日は美人としか会っていないような気さえする。たまたまそうなのか、それとも今まで俺の周りにはブサイクばかりが引き寄せられていただけなのか。

pp.49-50

喧嘩と告白は旅行初日が一番危ない

p.58

 俺が明智さんにとってのブレーキ役であるのと同じように、彼は俺にとってアクセルなのだ。彼が誘ってくれなければ俺は今も話の噛み合わないミス研の中で時間を浪費していたはずだ。彼がアクセルを踏むからこそブレーキに意味が生まれる。

p.92

「ここが密室であろうとなかろうと、実際に進藤さんは殺されたわけだからね。不可能だ、無理だなんて連呼しても意味がないよ。なにかしらうまくやる方法があっただけのことだから」

p.140

現代の警察を密室なんかで出し抜こうってのはかなり勇気のいる行為だよ。小説やドラマでは完全犯罪なんて言葉がよく登場するけど、私からすれば死体が見つかった時点で事件の半分は解決したようなものだと思う。殺害方法、犯行時間、犯行動機……死体は情報の宝庫だからね。真の完全犯罪は警察をギブアップさせることじゃない。犯罪として露見すらしないものだよ。人知れず殺し、人知れず死体を始末し、人知れず日常に溶け込むことだ。

pp.141-142

なんていうか、恐怖はあるんです。死ぬのは嫌だ、それに皆を助けなきゃって。でも慌てようにも騒ごうにも、圧倒的な力の前ではどうしようもない

p.169

出会ったばかりの頃は楽しい。だが相手を知れば知るほど、本当に好き合っているのかがわからなくなる。相手を信用できなくなる。終わっちまえば、すべてが欺瞞だったとしか思えない

pp.170-171

人の愛情そのものが。××と同じだ。見ろよあいつらを。自分が××にかかってるなんて気づいちゃいない。恋愛感情も同じさ。全世界の人間がそれに××していて、楽しそうに踊ってる。俺だけが××になりきれないんだ。俺は素面のままあいつらの真似をしようとしてる。表情を真似て、行動を真似て、同じような声を上げる。皆と同じですよって顔で肉を貪り合って、そのうち耐えきれずに隣にいる××を打ちのめして逃げ出すんだ

p.171

もはや××は単なる恐怖やグロさだけでなく、逆に人の罪深さ、貧富による格差や弱者と強者の存在、友情や家族愛、仲間が一瞬にして敵に回るという悲劇性など様々な要素を表現しうる存在になった。人々は××に自分のエゴや心象を投影するんだよ

p.184

手にした鎚矛メイスを何度も何度も彼の頭に打ちつけました。なんだか、スイカ割りみたいで夏っぽかったですね

p.297

もしかしたらあいつらは、あいつらっていう人間の一番醜い部分を曝け出しただけなんじゃないのか。そのただ一点を除けばそんなに悪い奴らでもなくて、お前も俺も、誰かの一番醜い部分を指差して、人でなしだ、許せないって叫んでるんじゃないのか。

p.299

読書エフスキー3世
読書エフスキー
引用:『屍人荘の殺人』今村昌弘著(東京創元社)

屍人荘の殺人を読みながら浮かんだ作品

屍人荘の殺人 (ジャンプコミックス)
4.5

漫画:ミヨカワ将
原作:今村昌弘
出版社:集英社
掲載誌:少年ジャンプ+
発表期間:2019年5月25日 〜

読書エフスキー3世
読書エフスキー
おや?『屍人荘の殺人』の漫画版じゃないですか。
無料読書案内の書生
書生
小説版は葉村視点でしたが、漫画版は明智視点で語られます。意外と小説の最後の方で読んだ内容が最初の方で語られたりと、色々とアレンジが加えられていますが、剣崎さんの魅力は漫画のほうが映えると思うので、剣崎比留子が好きになったあなたは漫画もぜひ。映画版はおそらくもっと好き嫌いが別れそうなので、トリックみたいなドラマが好きであれば…。

レビューまとめ

屍人荘の殺人まとめ

ども。読書エフスキー3世の中の人、父親の誕生日にあげたプレゼントを、結局自分で使っている野口明人です。

今回はネタバレをしたくない作品だったので、ほとんどストーリーに触れませんでしたが、最初のあらすじに書いた所だけ理解していれば大丈夫だと思います。

大学生が夏の合宿で訪れたペンションで殺人が起きる。これはよくあるテンプレのようですが、ここに一つのスパイスを加える事で今まで読んだことがないミステリーの出来上がりってわけですね。

それは“カレーうどんを人生で初めて見た時の感情”に似ているかもしれませんね。

カレーライス。うどん。どちらも定番なのに、なぜ今まで一緒にしたものがなかったんだっていう。

もちろん、カレーうどんではなく、カレーライスを食べたい時もあれば、冷やしうどんを食べたい時もある。なので一緒にしたことが絶品を生み出したという事ではないとは思うんですが、それでも確かに「新しい!」とは感じました

まぁ、新しさよりも、「今っぽい人が書いた作品だなぁ〜」って印象のほうが強かったですけどね。

ただ、ハードルを上げられ過ぎた作品によくある「なーんだ、こんなもんか」という感情はあまり湧きませんでした。ちゃんと伏線を回収している所とか「おお!本格派っぽい」という印象を受けましたし、主人公の葉村くんの話す内容はなかなか研究されていて興味深かったです。

こういう色々と受賞した作品は賛否両論を生みやすいとは思いますが、ぜひとも人の意見を鵜呑みにせず、自分の目で見て確かめてみてくださいませ。

人間は、賛の意見よりも、否の意見の方を真に受け取りやすいものなので。

結局の所、カレーうどんを自分で食べてみない事には、それが自分にとって美味しいかどうかはわからないものです。

ではでは、そんな感じで、前回、SFと長門の100冊を中心に読んでいくみたいな宣言をしたばかりなのですが、図書館から連絡があったので、急遽『屍人荘の殺人』について語らせていただきました。

ここまでページを閉じずに読んで頂いて本当にありがとうございます

最後にこの本の点数は…

スポンサードリンク

屍人荘の殺人 - 感想・書評

屍人荘の殺人
3.4

著者:今村昌弘
出版:東京創元社
ページ数:336

屍人荘の殺人
  • 読みやすさ - 90%
    90%
  • 為になる - 66%
    66%
  • 何度も読みたい - 60%
    60%
  • 面白さ - 82%
    82%
  • 心揺さぶる - 52%
    52%
70%

読書感想文

この本の最後に、鮎川哲也賞の選考を行った方たちの書評みたいなのが掲載されているんですが、北村薫氏が言ったように、まさに「奇想と本格ミステリの融合」でした。なぜ今までこういうクローズドサークルが定番にならなかったのか不思議なぐらい、クローズドサークルを生み出す状況としては素晴らしい発想だと思いました。個人的にはもう少しクローズドサークルの良さを全面に押し出してくれても良かったかなとは思うのですが、それは個人の好き嫌いの問題。ただ、最後にひとつだけ言わせて貰えれば、僕は最後まで明智くんを信じていました。ルールをぶっ壊したのかもしれませんが、明智くんを信じていた分だけ、漫画版の方が個人的には好きなのです…。

Sending
User Review
26%(2 votes)
屍人荘の殺人
いいね!をいただけると歓喜します